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バンバン・クラブ [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

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■報道写真家は慈善事業家ではない

どれだけ詳細に記事を書こうと、一枚の写真から受ける衝撃には敵わない。
報道写真展などに行くと、痛切に思う。

ニュースの書き手、いわば記者というのは偏見なき事実を歪曲せずに伝えなければならないため、主観から遠ざからなければならない。ゆえに、書き手の「伝えたい」情熱がどれだけあろうと、簡潔さを求められるため、実像から遠くなる。
写真も、任意に切り取られた瞬間であるため、写真家の主観はやはり含まれているといわざるを得ないが、報道写真においては被写体が演技をしていないため、伝わるものは大きい。

バンバンクラブの写真家・ケビンの「ハゲワシと少女」は、少し国際問題に目を向ければその写真に出くわすほど、有名な写真。
彼が、写真を載せた後に世論から非難されて自殺したのは知っていた。
その事を知った時、ひどく頭に来たし、どうして世間は彼を責められるのかという思いが、頭のなかをグルグルと回っていた。

世論に火をつけさせたのは同業者であるはずのマスコミだ。
彼らはその写真が撮られた前後のストーリーを省き、写真家を「ひとでなし」に仕立てた。その方がセンセーショナルで部数は伸ばせるだろう。
それならば彼らから写真を買い、掲載した新聞社だって同罪ではないか。
しかしピュリッツァー賞をとった彼に向けられた質問は「写真をとったあと、少女を助けなかったのですか?」だった。
実は食糧配給所はもう目の前で、そのあと母親がきて少女を抱き抱えていったということだし、ケビンはハゲワシを追い払った(そもそもハゲワシは本当に人間を狙ったのだろうか)。
そういった事を省いてしまうと、確かに写真家はファインダーの中にしか興味のない人非人に見えてしまう。

だが、私たちだって、日常で職務以上のことをこえて人に役立つことをしているだろうか。
ホームレスにお金を融通したり、ホームに身を投げる人を身を張って制したりしているだろうか。それどころかホームレスは社会の屑だのと軽蔑し、人身事故と聞けば予定に遅れると舌打ちする人が殆どではないだろうか。


報道写真家というのは、人が近づきもしない死地へ赴き、危険を顧みず事実を捉えようとする。
別にそれが偉いとか、正義感のなせる業だと表現したくはない。
誰でも生きる糧として何かしらの職業を選ぶし、職業に卑賤はないと思うから。

でも、彼らの写真がなければ、知り得ないことも沢山ある。
国際問題とくくられると小難しいと敬遠する人も、それらの写真の前では足を止めるだろう。
レイプされた少女の険しい顔、餓死寸前の子供の虚ろな目、改革に沸く、怒っているのか喜んでいるのか、はたまた両方なのか、血走った目をした民衆の群。

見たことのない世界に、様々な疑問と、新しい感情にぶち当たることになる。
なぜ、こんなに価値観が違い、なぜこんなに貧富の差があり、なぜこんなに宗教で揉めるのか。
関係のないと思っていた世界は、いつしか身近に迫ってくるかもしれない。
考える事が人を成長させる唯一の手段だとすれば、報道写真はとてもいい教材と言えるだろうし、日々周囲の事に無関心だった己に、何か変化をもたらすものだとも思う。
報道写真家はその点で有意義な職業だと言える。

メンバーの中で一番心優しくフレンドリーだったケビン。
彼らは職業以上の代償を払っているのではないだろうか。
戦争や暴力でじわじわと心を疲弊させていく彼らに対し、私達は安全な場所にいるただの傍観者だ。
少なくともケビンは職業の本分を全うした。
それを責める資格が一体誰にあるというのだろう。


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