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「運び屋」 [ヒューマンドラマ]

満足度★85点


運び屋 [Blu-ray]

運び屋 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2019/11/06
  • メディア: Blu-ray


■軽快なタッチで描きつつもご都合主義ではなくラストに、爽やかな涙を誘う

 

アールは家庭を顧みず仕事に打ち込んできた、まさに仕事が趣味の男。花がそんなにお金になるとは知らなかったが、その業界では品評会で高評価を受け一目置かれる。 栄光の時代も終わり、気がつけば孤独に。その埋め合わせをするかのように、グレーと感づきながらも麻薬の運び屋となる。

面白いのは、アールの堂々とした立ち居振る舞いや言動に、マフィアたちも巻き込まれていくところ。友情めいたものまで育んでしまうのだから、イーストウッド爺さんの存在感恐るべし。若い女性になんかモテる、というのも説得力。対比して奥さんの苦労は仕事だけじゃなかったんだな、というのも垣間見える。 また、お金の使い道というものを考えさせられる点も。

運び屋という仕事は汚いものだが、報酬の使い方は孫の学費や退役軍人のサロンの修繕など、周囲を喜ばすことばかりだ。よほど、チンピラがろくでもないことに使うより、善用しているといえる。

違法になるのは、それが法律違反だと定められているからであり、定めたのは第三者であり、こちらの承諾無しに意図存在してきたものでもある。アールが運び屋とならなくても、代わりに誰かが雇われるだろう。そこに複雑なものが去来する。しかし、彼は積み荷の正体を見てしまった以上、無用な言い訳をせず罪を潔く認める。 その姿は清々しいし、彼がどちらかというと乱暴な言葉遣いで紳士然としていないからこそ、不器用な人生を送った男の悲哀が立ち上る。

しかし一番大事な家族の絆を取り戻したアールは、たとえ獄死しようとも本望なのだろう。「ミリオンダラー~」や「グラン・トリノ」のように劇的すぎないのがよい。きっと獄中でも「アール節」で周囲を巻き込んでいくんだろう。

少ない会話で彼の背景を汲み取るベイツ刑事の存在も、出しゃばりすぎず良い。

しかしブラッドリー・クーパーってこんなにさっぱりした顔してたっけ。

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オノ・ヨーコと石岡玲子 二人の女性から強さを感じた展覧会 [■ART]

■ジョン&ヨーコ double fantasy(六本木ソニーミュージアム)

終業後、夜の6:30。人はそれほど多くなかった。

レノンが暗殺されたとき、私はまだ幼かった。新聞、テレビ、親が騒ぐのを見て、いったいビートルズとは、ジョンレノンとは何なのか、自分の知らない外の世界がぐんっと広がっているようで、そこに得体の知れない怖さを感じたものだった。
小学生高学年になり、洋楽にふれ、ロックのオリジナルを遡っていきビートルズにたどり着く。あのボブスタイルの髪型はかっこよいとは思わなかったが、キャッチーなメロディー、歌いやすさ、一度聞いたら忘れられない曲に魅了された。ビートルズを歴史順に知っていき、ジョンの横にオノ・ヨーコが現れる。

オノ・ヨーコは、無表情で目を見開いて何を考えているかわからない、得体の知れない女性に思えた。それから今までも、彼女への認識は通り一遍のテキスト上のものでしかなかった。なので今回の展覧会は、ジョン・レノンよりもオノ・ヨーコを深く知るいい機会となった。

素顔のオノ・ヨーコは、ちゃんと笑うし嫉妬もするし、ジョンとの関係についても悩む一般の女性と同じ面も持ちあわせているチャーミングな女性だった。しかし大きく一般女性と違うのは、ジョンに出会う前からずっと確固たる信念を持っていたこと。一つ一つの言葉が的確で、説得力がある。

ジョンは初めて出会う概念に戸惑い、自分なりに消化しようとずっともがいているように思えた。
「他にもいい人がいたかもしれない」と現在のパートナーに疑問を持つ人はたくさんいるかもしれないけど、この二人はこの二人でなければならなかった、そう思える二人。

それにしても、安田財閥の令嬢で日本では上流階級の部類に入る人なのに、ジャップだの、ジョンレノンは狂っただの、ひどい言われよう。その時代から比べれば現代は白人優位主義は薄まったのかもしれないが、まだまだ深く刷り込まれているのだろう。

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一番ハッとして、共感した言葉

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ジョンが練習した漢字。象形文字に立ち返り漢字を絵で捉えている



 ■石岡玲子展(東京都現代美術館)

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素晴らしい接客の館内レストラン

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私が初めて石岡玲子さんに触れたのは、忘れもしない「ザ・セル」という映画。サイコパスの意識の中に、潜入する捜査官にジェニファー・ロペス。その圧倒的なグロテスクさを擁した世界観に、目を奪われた。
それから「ドラキュラ」など映画の仕事が続いたので、私は暫くの間、石岡さんは衣装デザイナーだと思っていたほどだった。
今回、回顧展で作品を俯瞰してみると、女性のシンボルである乳房のモチーフが多い。裸からエロス払拭し、形そのものの美しさをアピールする。映画「イノセンス」やPARCOのポスターなど、被写体がヌードそのものだったりして、果たして現代でこれが広告として使用できるのか、またそこまで勇気のある会社はあるのかを考えると凄いことである。これも時代の違いということだろうか。

70年代を成人として生きていないのでわからないが、今とは違う熱量を感じる。
キャッチコピーでジェンダーレスとは?を問う作品が多いが、「らしさ」からの脱却を目指しつつも、「らしさ」が持つ美しさをありのまま見せたいという欲も感じる。
らしさ」によるメリットは享受しても構わないが、「らしさ」に縛られたり押しつけはいけない。
常に自分で考え受け身でいるな、という強いメッセージを感じた。彼女たちの時代から現在、ジェンダーの論議については牛歩に感じたりもするが、広い視野で歴史を見ると、女人禁制がまだ残っていたり自由恋愛のない時代からそれほど経過しておらず、すごい進歩ではあるとも思う。

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