散り椿 [時代劇]
その自然の大らかさや美しさと対比するように繰り広げられる武士の世界は、矮小で意地汚い。そこに侍の悲哀が浮き彫りになる。
監督の我が出てしまったのか、映像の美しさを見せたいがためのカットが多いのだ。
また、新兵衛と妻との回顧場面も然り。
「新兵衛、なぜ戻ってきたのだ」という采女の台詞、何度聞いただろう。
岡田はハンサムだけどどうしても凄みが足りないというか、三船敏郎のような滲み出る野性味や、憤りを隠した哀愁のようなものが感じられない。勿論日本映画界の重鎮と比べてしまうのは申し訳ないのだが、本人がそこを目指そう目指そうとしている気がしてこそばゆく、背伸びしてるようにしか見えない。
鬼気迫る殺陣は目をみはるものがあり、クライマックスの型にはまらない血生臭ささはえげつなくて好み。特に采女がずんずん歩いて、気圧された相手を突き刺すところがいい。
新撰組・永倉新八の回顧録で「いざ斬り合いになると、相手がこうきたらこう、と考える余裕はなく、ただがむしゃらに体が動くのみ」という文を思い出す。
天皇の世紀 [時代劇]
太秦ライムライト [時代劇]
★満足度80点
福本清三さんが座り、佇み、殺陣をする。楽屋で顔を造る、踏切が上がるのを待つ、盆栽の手入れをする。
もうそれだけでなんだか切ないのである。
殺陣役者というより、一人の武芸者の面立ち。人を生かすも殺すも人次第。「殺された」場合の人間のいかに惨めなこと。
人間、どんな状況であっても後輩は先達に対してこういう処遇をしてはいけない、引き際をきちんと設けなければならない、としみじみ思った。「人の顔を立てる」という日本語は正鵠的を得ている。
ひどい扱いを受けても、うつむき加減に黙々と与えられた仕事を全うする愚直さに、何度も目が潤んだ。
ドキュメンタリーにも胸を打たれました。
劇中も時代劇スターを演じる松方弘樹に対して、挑発するシーンで何度もつまづく福本さん。
劇中の香美山は、福本さんそのままだから、本当の大スター松方弘樹に対して、どうしても暴言が言えない。そんな福本さんに松方さんが「おい、同級生。とってくいやしねえよ」と気遣うのだ。福本さんは「主役なんて」と謙遜するけれど、立派に背中で泣かせる役者だと思う。
今までの邦画らしくない編集だなと思ったら、ハリウッドで映画を学んだ日本人と、撮影監督のコンビが撮りあげたものでした。
ただ、さつきが一躍脚光を浴びた後に派手なワンピースを着てきたり、トップアイドルが月代を嫌がってかつらを付けるなど、ちょっとステレオタイプすぎるシーンに失笑も。
香美山がいったん田舎に引っ込んだ時の、田畑で棒きれを使った美しい殺陣シーンは、【ベストキッド】を思い出しました。こういったわかりやすさも、外国で受け入れられやすいと思う。
あらゆる角度から撮れるだけとって、編集で良いカットをつなぎ合わせるハリウッドの手法と、一発撮りを信条とした殺陣師の食い違いがあって、最初は監督さん辛そうでしたけど、出来上がってみたらキャストも納得だったのではないでしょうか。監督が日本人だから、描写に変なところもないし。
きっと外国人からみたら名札で出番を割り振るシステムは「アナログ」に見えるだろうけど(笑)
大一番の殺陣シーンはデジタルからフィルムのようにタッチが変わるのだが、その「劇中劇」があまりに格好よくって。
最後に香美山倒れ込むシーン。
「引退」の象徴以上に、一人の男の「役者生命」が終わり、まるでそのまま死んでしまうようで切なかった。
つくづく、アイドルばかりを主役に登用する「なんちゃって時代劇」ばかり横行するなか、本物の時代劇をみたい!と欲している自分に気がつきました。
一昔前の時代劇スターも若い人も多かったけど、「顔」の迫力やオーラが違う。
精神年齢がどんどん下がっているのかもしれない。
「どこかで誰かが見ていてくれる」という台詞とともに、後世に良い時代劇を残してもらいたい。
そのために観客は何ができるだろう。
あかね空 [時代劇]
★満足度85点
■豆腐がつなぐ勧善庶民の人情劇
浮世絵から江戸の町にスムースする冒頭の美しさからやられました。
京都からでて来た豆腐屋「永吉」と、息子と橋の上ではぐれた豆腐屋「清兵衛」と、おそらくはその生き別れた倅「傳蔵」が織り成す人情劇。
豆腐屋ってのがまたいいねぇ。
絹漉しが口に合わない江戸っ子たちの困惑した表情もおかしい。江戸は木綿なんだよね。味のわかるのは職人や上流階級の人達だけ。
それを見守る後に妻になる「おふみ」と、清兵衛の女房のまなざしも暖かく、江戸っ子の信心深さが嫌味もなくすっと胸に沁みる。
最初は永吉がはぐれた息子かと思いきや・・・ってのもまたいい。
傳蔵は後に永吉の家族の危機を助けることになるが、動機ははっきり描かれていない。
でもそれがまた粋じゃありませんか
とうの昔に出自はわかっていたが、もうその頃には漠連に足を突っ込んでいたのかもしれないし、豆腐屋の看板をみて、「ああここだ」と思い出だしたのかもしれない。
はたまた豆腐屋の倅だった自分に重ねて、永吉の家族に肩入れしただけかもしれない。
心情を計るとなんとも奥ゆかしいじゃありませんか
永代橋の上で見た掌には、豆腐を掬った思い出か、おとうの手を離してしまった過去を思い出したのか。それは彼らの胸の内、とやかくいうのは野暮ってもので――
だけどね、元は豆腐を丹精込めて作っている永吉の職人魂ありきなんだよね。そこが人の胸をつき、動かしていく。清兵衛もしかり、豆腐に人生を捧げた男達の話でもあるんだよねぇ。
丹念に描かれた家族愛と豆腐作りへの愛情。この2つを肴にしっぽりといい酒を飲みたくなる、そんな映画です
俳優メモ>>内野聖陽/中村梅雀
一人二役を演じる内野聖陽、去年の大河「風林火山」の主役でハートを射抜かれた人も多いはず。そのときの叔父役の石橋蓮司と今回も浅からぬ縁(エニシ)をもつ間柄を演じてます。
内野さんは渋目の演技が効いてます。これからもっと注目されて行くでしょう。
あと、あくどい人間を演じた中村梅雀。この人最近【篤姫】で、井伊直弼を演じましたね。小心者の小物から、腹の座った大物まで、本当に上手い。最近は『信濃のコロンボ事件ファイル』シリーズの主演ですね。この人の歌舞伎観たいなぁ
篤姫、終盤収まるか? [時代劇]
いやぁ近年稀に見る高視聴率を持続している篤姫ですが、本当に最近の大河のなかでぴか一の面白さですね。
しかーしとっても心配なことが一ついや二つ…三つ…?
あと12回しかないんですよね、気づけば。
いっつも終盤めちゃくちゃ駆け足になりがちなNHK大河ですが、今回も同じ轍を踏まないか心配で
その回数であとこれだけのことを描かなきゃいけないんですけど、大丈夫でしょうか。。。今までが面白いので、余計。。。
・家茂上洛にあわせ京都守護職・松平容保を任命、上京。
・将軍護衛の浪士組が上京(新撰組チラっと出るか?)
・長州藩が下関でアメリカ商船を襲う。
・薩摩、イギリスに賠償金払って生麦事件解決。
・長州藩クーデターvs薩摩(西郷復帰)&会津で応戦した禁門の政変
・坂本龍馬の亀山社中を小松帯刀も支援、お竜との仲人も勤める。
・家茂上洛後、京都で死亡。
・孝明天皇死去。
※上記二つには公家の岩倉具視が暗殺に関わっているとも言われています。
・徳川慶喜が将軍に。
・坂本龍馬の取り持ちで桂小五郎&西郷隆盛が手を結ぶ。
・1868年、慶喜が大政奉還。
・もろもろあって戊辰戦争勃発(新撰組と幕府軍らvs長州・薩摩・肥後・土佐)
・勝海舟と西郷隆盛の会談、江戸城明け渡し。
・慶喜は上野寛永寺に蟄居謹慎。
・クーデター成功、薩長土肥が政権握る。
・小松帯刀、明治3年に死去。
・明治16年、篤姫は徳川の人間として一生を終える。
他にも細かいこといえば、これからがいかにも幕末というところ、篤姫の正念場で、モリモリ盛りだくさんですよっ?
そもそもこのドラマ唯一ともいえるフィクション部分は小松帯刀と篤姫の友情なのですが、その2人を中心にしてるので描こうと思えばもう一年やれるくらいの情報量があるはずなんですよ(描かれないと思いますが小松帯刀は実は江戸で妾を作ってるんですよね。それでお近が琴の面倒みたっていうエピソードも)
私の予想としては、明治後も勝海舟と篤姫は仲良かったというので、『明治維新数年後――』みたいなくだりで、二人で部屋で囲碁でも打ちながら過去を振り返る、というエンディングになるんじゃないかと思ってるんですけど
第三の主役、西郷と大久保が征韓論で決別後に起こった西南戦争まではきっと描かないんでしょうね。大久保の末期のうわごとは「西郷、もうええ加減にせんかい」だったそうです
私は西郷の英雄扱いには前から疑問をもっていて、早い段階で「死にたがり」の、自分からは動かないけど人に頼られて動くって言う芯の無い人、ってイメージだったのですが、このドラマではそこがやや描かれているので納得しているのですが、彼らの描き方も今後注目ですね。
篤姫と和宮ら公家のばか者どもの確執、ちょっとしつこかったんじゃぁ?
憑神 [時代劇]
★満足度75点
浅田次郎は本当に幕末が好きなんだなぁ 影武者のお家柄というのも本当にあったのか知らないが、幕末では形骸化した役職はあったから、あながち作り物とも思えない。
最初はコメディ路線で行くのかと思ったら、最後の方はホロリとさせる。うまいなぁと思った。 慶喜が蟄居していたことを逆手に取って、最後の将軍の影武者にさせるとはナカナカの展開
最後の花道がやけにギャラリーが少なくて、個人的にはもっと盛大にやってもよかったんじゃないかと思ったけど、侘しさの中に男気が映えるからあれはあれでいいのかな。 ああもさっぱりと死を受け入れられると逆に悲しさが募る。不思議だ。武士の生き方の中で、ああいう幕の引き方もあるんだなぁ。
編集の悪さと浅田次郎のいらないカット(笑)のせいで多少減点
俳優メモ>>江口洋介
しっかし江口洋介は幕末多いですね。大河【新選組 ! 】 でも龍馬やってたし、【竜馬の妻とその夫と愛人 】でも龍馬やってたし。だけど坂本龍馬をやっても勝海舟をやってもほぼ同じ演技だなぁ。男らしくて観ていて飽きない演技ですけどね。
SAYURI [時代劇]
★満足度55点
「神秘の日本」を「ワケのわからない国」におとしめてしまった。
編集、音楽、映像はいいんだけど肝心の背景と演出が。
原作は10年もかけて丹念にリサーチしたというだけあって、きっと用語などしっかりしてるのだろう(…と願う) やはり映画は目で見る物、のれんや提灯、登場人物のちょっとした所作が日本人らしくないとすべてぶち壊し。
これが完全なるフィクションで、「さくらん」や「ワイルドワイルドウエスト」みたいに外国人がみても誇張した遊びの世界だとわかる作品ならいいけど、これはかなりノンフィクション的な話法の作品なのだから、やはり「なにがどう違うのか」わからない外国人スタッフやキャストではなく、日本人キャストを使って欲しかった。
日本語と英語が混ざるところとか、京都の建物が出てきているのに戦争がおきて疎開するところは東京のようで、土地感覚がチグハグ。
しかも舞妓を芸者と呼ぶのは関東のほうじゃなかったか!?
第二次世界大戦も終わったのに、芸者に太夫のような厳しい縛りがあったかも謎だし…
なんか周りは昭和になっていくのに芸者の周りだけ江戸時代のよう。
ヨーロッパのコスチューム・プレイにはあれだけ時間を割く米映画産業、ちょっとは東洋人の意見も聞いてよ。
そんで、結局「会長さん」の本名が謎。
“会長さん”が本名だと思ってたら…怖すぎ。
コン・リーがドメスティックすぎるのも怖すぎ。
北の零年 [時代劇]
武士の一分 [時代劇]
★満足度95点
銀座にて。友達と年内最後に一緒に見るには何がベストか、【父親たちの星条】と迷って【武士の一分】を見に行った。
木村拓哉に謝りたい。
キムタクは何をやってもキムタク、と思っていた浅はかな私を許して欲しい。
監督にはわかっていたのですね、彼の才能の善さを。
たそがれ~がアカデミー外国語映画賞にノミネートされた時、映画人のくせに「それってすごいの?」とのたまった監督。
ウッディ・アレンもそうだけど、才能ある人ってビックリするほど業界に関心なかったりする。
その方が、研ぎ澄まされた審美眼をもてるのかもしれない。
さりとて、スクリーンに映った刹那は確かにキムタクというフィルターはとれていなかった。
ドキドキしながら第一声を聞いた観衆は多かったろう。
一瞬、落ちつかないその所作に大丈夫か?とも思った。
しかしものの5分で「キムタク」はこそげ落ち、ささやかな夢をもった若侍がみずみずしく現れた。
フィルターを勝手にかけていたのは、こちらの方だったのだ。
あらすじを原稿用紙1枚でかけるほどのシンプルな話だけど、山田洋次・時代劇三部作に共通の“リアルさ”が惹きつける。
夏にはきちんと首もとに汗をかかせ、外出後は足袋がうっすらと汚れている。
身分によって髪の乱れ具合も違う(上級武士は鬢づけ油をきっちりと塗り、下級武士は横からボサボサと髪が躍り出ている)。
だからこそ、隣人の目で彼らを見守る事ができる。
夫婦がどうなるか、果し合いはどうなるか祈るような気持ちで。
キムタクの演技は、眼が見えなくなってから凄みを増す。
死んでいるような達観した眼。妻が不義を告白する時の怒りの眼。
怒りでみしる柱、空を切る拳、勢いの余り壁を突き刺す木刀、空気を斬る真剣の音、千切れる腕、全てがリアルで。
もう一つ忘れられないのが。
小林稔侍が“一人腹”をやるシーンがある、介錯もなくたった一人で。
もうすぐ定年、という風情の侍が、死ぬ間際に“武士”になるのである。
せつなかった。
山田洋次は画一的な時代劇に、日常の佇まいという新風を送り込んだ。
日本人にしかわからない日本の善さを、いつまでも愛でて生きたい。
そんな風に優しく沁みていく、この映画に出会えた事を幸せに思ふ。
こぼれ話>>自分のコト
余談だが、友達に「話し方が桃井かおりに似ている」と言われた。
これで3人目なんだけど、そんなにけだるそうかなぁ(笑)
蝉しぐれ [時代劇]
★満足度75点
どうして日本映画は安易なCGを使うのだろう。
般若のお面が飛ぶところとか。
陰陽師でも安っぽい式神描写に辟易。
この映画も、その奥義伝授のシーン一つで私の中では台無しになった。
ただ、あの坂道のシーンは秀逸。
緒方拳も、初めて緒方拳ということを忘れさせた。
ふかわりょうと今田耕司は賛否両論だろうけど、意外といい味だしていて、ふかわは特にしばらく気づかなかったくらい。
こういう路線に転向しても、いいかもしれないね。
多分、監督は、傑作にしようという意気込みが空回りしてるんじゃないかと思った。