コレクティブ 国家の噓 [ドキュメンタリー]
満足度★85点
■無力感と向き合いながらも問いかけるもの
発端は基準より大幅に希釈した消毒液だった。
ライブハウス「コレクティブ」で多数の人間が大火傷を負い、担ぎ込まれた大病院で助かるどころか続々死者が出たことから、メディアが原因を究明するところから物語は始まる。
制作陣は、これは大事になると予感したのだろうか。よくぞ早くから密着してカメラを回したものだと思う。
調べるとその消毒液はビッグファーマからの賄賂授受で国内ほぼ全ての大病院に納品されており、更に病院は倹約のため消毒液を薄めてきた。結果、基準より10倍近くも薄められ、成分を再検査すると殺菌できる細菌はたったの四つで、さらに消毒液に抗生物質のきかない細菌が混じっていた。
調べれば調べるほど、保健相や大学病院、雪だるま式に汚職の暴露につながっていき、最終的には国家や法そのものをどうにかしないといけない話になっていく。ことの大きさに、正義感あふれる新大臣も、ジャーナリストたちも、どこから手を着ければいいのかと茫然自失として映像は終わる。
口封じとしか思えない、製薬会社の社長の交通事故死。
ウジのわいた患者の顔に布をかける医者。
臭い物に蓋をする政治家と病院。
内部告発した看護師が吐き捨てる。
「医者はすでに人間ではないのです」と。
なぜ25年も見過ごされてきたのか?と新大臣が嘆くが、汚職に無関係の人が事態に気がついていたとしても、見て見ぬふりが続いてきたのだろう。
その小さな見過ごしが雪だるま式に大きな悪事になってしまう。
一人一人の面倒なことに巻き込まれたくないという保身が、大きな歪みとなって跳ね返ってくる。
一人一人の面倒なことに巻き込まれたくないという保身が、大きな歪みとなって跳ね返ってくる。
新聞記者は、人間は権力側に回ると腐敗するものだから、市民は権力が暴走しないよう監視しなければいけないと語る。デモのスローガン「無関心は悪」。それが一番の根幹なのかもしれない。
私は確信する [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
日本ではなじみのないこの事件、いかに複雑なのかと身構えていたら意外とシンプルで、それ故検察が推定無罪をまるで無視し、状況証拠だけで被告人を犯人と断定するのかまるでわからなかった。
フランス人には説明不要であるのだろう事件の背景は端折られているので、スキャンダラスに発展するまでの経緯は日本人には伝わりづらい。
監督は実際にこの事件の裁判を傍聴し、被告人の無罪を確信してこの映画を作りたいと考えたそうだ。語り手のノラは唯一フィクションの存在だが、監督の立場を代弁した存在といえる。
高圧的で雄弁な検察、策略家めいている行方不明の妻の愛人、ひたすら寡黙な夫。
観客から見ると愛人が限りになく怪しい。語り手のノラも、愛人が真の犯人だと確信し弁護の手伝いをする。しかし愛人の虚言や行き過ぎた行動も、もしかしたら夫が怪しいと確信している故の行動なのかもしれない。…と、観客自身も常に自問自答しなくてはならず、そのもどかしさが苦痛にも感じる。
ノラの確信はついには盲信となる。
物的証拠がないまま突き進む裁判のなか、あらためて「推定無罪」の重要性を説く弁護士の姿になんと安堵したことか。人が人を裁くことの危うさを思い知らされる。
物的証拠がないまま突き進む裁判のなか、あらためて「推定無罪」の重要性を説く弁護士の姿になんと安堵したことか。人が人を裁くことの危うさを思い知らされる。
薬の神じゃない! [ヒューマンドラマ]
満足度★95点
■法律は誰のためにあるのかを問う
だらしない生活を送り、売れない滋養強壮剤を販売する貧乏だった男が、ひょんなことからインドから白血病患者のためジェネリック医薬品を密輸することになり、患者の現実に直面する。
仲間集め、手にした成功、にわかにうまれる友情、そして逮捕の恐怖と離散…、最初は金儲けのためにとビジネスを始めた男の心境の変化もあわせて、話はスピーディーに展開し一級の娯楽品に仕上がっているが、忘れてはいけないのがこれが事実をベースにしているということで、社会の現実を問いかけてくる。
薬は患者を助けるために開発されたのではないのか?
法律は市民を助けるためにあるのではないのか?
「本物の病気は貧乏であり、それは治せない」という痛烈な皮肉めいた台詞もあったが、否、病気だからこそ貧乏になる側面もあり、貧乏だから病気になることもある。誰もが病気にならない保証などない、というのはまさにその通り。
開発費回収のためつり上がる薬価。
ビッグファーマをめぐるテーマはいつもこの問題が俎上にあがる。
開発の利益を守りたい製薬会社と現場の医師と患者の構造は、そのまま権力の構図に変換される。
法が市民を助けないのなら、法そのものが間違っているのだと一石を投じないと、政治も社会は動かないのだとこの映画は伝えるが、当局の締め付けの場面がやや緩いのは、無事公開されるように忖度したのか?と思うと、少し興醒めでする部分もある。
それにしてもチョンを取り巻く登場人物のキャラが際だち、共通目的のため悪事(という名の善行)に手を染めていく様が、【 オーシャンズ11 】のような犯罪組織もののようで、とてもスリリングでおもしろい。
チョンの義理の弟が刑事で捜査に葛藤したり、インドの不法医薬品生産会社の社長とチョンがビジネスをこえ連帯感を共有したりと、すみずみまで胸熱の演出も。
話には関係ないが、刑事役が小栗旬にみえてしかたがなかった。
■法律は誰のためにあるのかを問う
だらしない生活を送り、売れない滋養強壮剤を販売する貧乏だった男が、ひょんなことからインドから白血病患者のためジェネリック医薬品を密輸することになり、患者の現実に直面する。
仲間集め、手にした成功、にわかにうまれる友情、そして逮捕の恐怖と離散…、最初は金儲けのためにとビジネスを始めた男の心境の変化もあわせて、話はスピーディーに展開し一級の娯楽品に仕上がっているが、忘れてはいけないのがこれが事実をベースにしているということで、社会の現実を問いかけてくる。
薬は患者を助けるために開発されたのではないのか?
法律は市民を助けるためにあるのではないのか?
「本物の病気は貧乏であり、それは治せない」という痛烈な皮肉めいた台詞もあったが、否、病気だからこそ貧乏になる側面もあり、貧乏だから病気になることもある。誰もが病気にならない保証などない、というのはまさにその通り。
開発費回収のためつり上がる薬価。
ビッグファーマをめぐるテーマはいつもこの問題が俎上にあがる。
開発の利益を守りたい製薬会社と現場の医師と患者の構造は、そのまま権力の構図に変換される。
法が市民を助けないのなら、法そのものが間違っているのだと一石を投じないと、政治も社会は動かないのだとこの映画は伝えるが、当局の締め付けの場面がやや緩いのは、無事公開されるように忖度したのか?と思うと、少し興醒めでする部分もある。
それにしてもチョンを取り巻く登場人物のキャラが際だち、共通目的のため悪事(という名の善行)に手を染めていく様が、【 オーシャンズ11 】のような犯罪組織もののようで、とてもスリリングでおもしろい。
チョンの義理の弟が刑事で捜査に葛藤したり、インドの不法医薬品生産会社の社長とチョンがビジネスをこえ連帯感を共有したりと、すみずみまで胸熱の演出も。
話には関係ないが、刑事役が小栗旬にみえてしかたがなかった。
コーダ あいのうた [ヒューマンドラマ]
満足度★80点
■彼らの世界へ導く演出に、はっとさせられる
あの無音の演出がなければ、この映画がそこまで高い評価を得なかったのでないだろうか。
私たちが外側からみていた彼らの世界へ、観客を一気に連れて行った。
ルビーの人生のハイライトであり、観客が一番観たいと思う映画のハイライト。
その大切な大切な瞬間を、共有できない家族。
その立場を、少しでも観客が理解できたら。あの大胆さには、そういう創り手の思いが感じられた。
自分の娘が耳が不自由であってほしかったという、閉鎖的な性根の母親・ジャッキー。
家族に頼られたいもどかしさを妹にぶつける兄・レオ。
快活な性格な割に、現状打破に重い腰の父・フランク。
そして自分の意気地なさを、家族がいるからと言い訳にする娘・ルビー。
しかし健常者も不自由な人も関係なく、自分の殻を破る勇気があれば、少し違う新しい日々を送れるかもしれない。
そんな風に背中を押してくれる映画だった。
現実には、こんなにお綺麗なことばかりではないかもしれない。
身体障害者を取り巻く環境は、もっと厳しいかもしれない。
でも、結局自分を幸せにするのは自分自身なんですよね。
最後のステージで手話を交えながら歌い上げる場面は、ルビーが本当に気持ちを伝えたい相手は誰だったのかよく伝わり、涙無くしてはみられませんでした。
興味深かったのは、前述したジャッキーのセリフで、自分の娘が健常者だとわかったときに落胆したというところ。「わかりあえないかもしれない」と不安になったの弁の裏に、自分が娘を妬むのではないか?という杞憂を垣間見た。
そこで気が付いたのは、私たちは彼らのことを勝手に「社会的弱者だから人の弱さに寛大で、優しい人々」と勝手にカテゴライズしていないだろうかということ。特に映画の中では。そういって一括りにすることで、現実社会において彼らを息苦しくさせているかもしれない。
少し物足りなかったのは少人数だけで話が完結してしまい、ルビーを取り巻く学校の世界が少し小さすぎて見えたこと。同じ音楽クラスの子たちがルビーの歌唱力をどう評価しているのかなど、少し絡みが欲しかった。
■彼らの世界へ導く演出に、はっとさせられる
あの無音の演出がなければ、この映画がそこまで高い評価を得なかったのでないだろうか。
私たちが外側からみていた彼らの世界へ、観客を一気に連れて行った。
ルビーの人生のハイライトであり、観客が一番観たいと思う映画のハイライト。
その大切な大切な瞬間を、共有できない家族。
その立場を、少しでも観客が理解できたら。あの大胆さには、そういう創り手の思いが感じられた。
自分の娘が耳が不自由であってほしかったという、閉鎖的な性根の母親・ジャッキー。
家族に頼られたいもどかしさを妹にぶつける兄・レオ。
快活な性格な割に、現状打破に重い腰の父・フランク。
そして自分の意気地なさを、家族がいるからと言い訳にする娘・ルビー。
しかし健常者も不自由な人も関係なく、自分の殻を破る勇気があれば、少し違う新しい日々を送れるかもしれない。
そんな風に背中を押してくれる映画だった。
現実には、こんなにお綺麗なことばかりではないかもしれない。
身体障害者を取り巻く環境は、もっと厳しいかもしれない。
でも、結局自分を幸せにするのは自分自身なんですよね。
最後のステージで手話を交えながら歌い上げる場面は、ルビーが本当に気持ちを伝えたい相手は誰だったのかよく伝わり、涙無くしてはみられませんでした。
興味深かったのは、前述したジャッキーのセリフで、自分の娘が健常者だとわかったときに落胆したというところ。「わかりあえないかもしれない」と不安になったの弁の裏に、自分が娘を妬むのではないか?という杞憂を垣間見た。
そこで気が付いたのは、私たちは彼らのことを勝手に「社会的弱者だから人の弱さに寛大で、優しい人々」と勝手にカテゴライズしていないだろうかということ。特に映画の中では。そういって一括りにすることで、現実社会において彼らを息苦しくさせているかもしれない。
少し物足りなかったのは少人数だけで話が完結してしまい、ルビーを取り巻く学校の世界が少し小さすぎて見えたこと。同じ音楽クラスの子たちがルビーの歌唱力をどう評価しているのかなど、少し絡みが欲しかった。
フリー・ガイ [ファンタジー]
満足度★85点
■命令だけに従う人生でいいのか?
AIを通じて、日々同じことの繰り返しに飽いた人々に、人生楽しもうぜ!とエールを送る良作。
独自に開発したゲームを、半ばだまし取られた開発者の2人。
しかし二人の開発した「成長する」AIがモブキャラのガイに投影されていたことで、完璧かにみえたゲームの世界が徐々に変化していく。
ゲームのモブキャラ視点では、ゲームプレイヤーは何でもできるヒーローのようなような存在。
プレイヤーはサングラスをかけてプレーをするため、ガイは突如空から現れるプレイヤーを「サングラス族」と呼んでいる。この設定の妙で、観客はするりとフリー・シティに入り込むことができる。
同じ行動を設定どおりに動くしかないモブたちは、自分の行動に疑問を抱かない。
しかしガイは成長するプログラムなので、そこに違和感を覚え始める。
これはプログラミングした人間側からしたら「バグ」のように見えるだろうし、ガイが周りのモブに影響を与えていく点は「ウイルス感染」みたいなものだろう。
プログラムの生みの親が、自分の設定したキャラに愛を告げられ心が揺らぐシーンは、なんともいえないおかしみがあった。
しかし人間同士も相手を完全に理解できないという点では、自分の幻想や虚像を相手に投影しているのだろう。
その点をうまくついた作品だとも思う。
ゲーム世界が現実化したら?というギミック的な面白さもあり、AIが人間の敵に回らないので安心してみることができ、なおかつ笑いとユーモアにあふれた作品。
そしてガイを通じて、人生の主役は君だよ、と変化を恐れる人たちを勇気づけてくれます。
ゲームをだまし取った経営者アントワンを「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティが悪乗りで演じる。
ちなみに東京の渋谷の街にフェルサブルータの垂れ幕があったが、2017年にこの興行を当時見に行ったので、懐かしく思った。
フリー・ガイ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
- 発売日: 2022/04/13
- メディア: Blu-ray
AIを通じて、日々同じことの繰り返しに飽いた人々に、人生楽しもうぜ!とエールを送る良作。
独自に開発したゲームを、半ばだまし取られた開発者の2人。
しかし二人の開発した「成長する」AIがモブキャラのガイに投影されていたことで、完璧かにみえたゲームの世界が徐々に変化していく。
ゲームのモブキャラ視点では、ゲームプレイヤーは何でもできるヒーローのようなような存在。
プレイヤーはサングラスをかけてプレーをするため、ガイは突如空から現れるプレイヤーを「サングラス族」と呼んでいる。この設定の妙で、観客はするりとフリー・シティに入り込むことができる。
同じ行動を設定どおりに動くしかないモブたちは、自分の行動に疑問を抱かない。
しかしガイは成長するプログラムなので、そこに違和感を覚え始める。
これはプログラミングした人間側からしたら「バグ」のように見えるだろうし、ガイが周りのモブに影響を与えていく点は「ウイルス感染」みたいなものだろう。
プログラムの生みの親が、自分の設定したキャラに愛を告げられ心が揺らぐシーンは、なんともいえないおかしみがあった。
しかし人間同士も相手を完全に理解できないという点では、自分の幻想や虚像を相手に投影しているのだろう。
その点をうまくついた作品だとも思う。
ゲーム世界が現実化したら?というギミック的な面白さもあり、AIが人間の敵に回らないので安心してみることができ、なおかつ笑いとユーモアにあふれた作品。
そしてガイを通じて、人生の主役は君だよ、と変化を恐れる人たちを勇気づけてくれます。
ゲームをだまし取った経営者アントワンを「ジョジョ・ラビット」のタイカ・ワイティティが悪乗りで演じる。
ちなみに東京の渋谷の街にフェルサブルータの垂れ幕があったが、2017年にこの興行を当時見に行ったので、懐かしく思った。
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 [■BOOK・COMIC]
満足度★80点
栗城の人物評価★30点
■名声欲にかられた「おめでたい」人で、登山家ではなく実質テレビ屋
「単独無酸素、7大陸最高峰」 登場した時、この言葉だけでインチキ臭いと思った。
栗城の人物評価★30点
デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 (集英社学芸単行本)
- 作者: 河野啓
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2020/11/26
- メディア: Kindle版
「単独無酸素、7大陸最高峰」 登場した時、この言葉だけでインチキ臭いと思った。
エベレスト以外は酸素を使わないことを、登山愛好家なら知っているから。
偽者というより「誇大広告」で「詐欺師」でただの「テレビ屋」。
そう思い、この人の登場するテレビ番組は全く見なかった。
なので、エベレストで滑落死の報を聞いて非常に驚いた。あのレベルの人がそんな無謀なことをやったのかと。
そして改めてこの本を手に取った。むしろ死してから興味をもった。
そしたら案の定、お笑い芸人になるために一時期吉本の養成所に入ったそうじゃないですか。
これは完全にテレビ屋ですね。
「それにしたって6大陸最高峰行ったのは凄い」と人はいうかもしれないが、 はっきりいって処女峰でもない手垢にまみれた山のルートなら、残置ロープやらなにやらたくさんあるし、若いうちは体力で凄い山も登れちゃう。
一人だとしても他のツアーやパーティーの後を付いて行けばいいだけだ(実際他のパーティーがおいて行ったテントを勝手に使ったこともあったという)。
曲がりなりにも「登山家」というならば、未踏のルート開拓や、既知のルートでも誰もなしえてない条件で登頂することが必要だと思う。
で、結局若さと勢いだけじゃどうにもならなくなって、技術を磨いてこなかったため滑落に至った。ただそれだけ。
「この人は山が好きなのではなく、有名になる手段として山を選んだだけ」と確信。
本来、山が本当に好きなら日本の山にどんどん登りにいくのだ。それを講演会に時間を費やしてほとんど登りに行っていない。しかも北海道の羊蹄山に、冬とはいえ玄人なら一般人でも登れる山を登れなかったという。
彼が登山界に近寄って技術を磨いてこなかったことからも、王道の研鑽を怠ったということだろう。
それにもまして明らかになる驚きの事実…。
・アイゼンやピッケルなど、命を預ける道具を人から借りる。手入れして返さない(手入れの方法も知らなかったのだろう)。
・間違った健康法(タンパク質を食べない「マグロのような体が理想」という弁)
・間違ったトレーニング(藤原紀香の行っていた加圧トレーニングを実践) 加圧トレーニングを否定するわけではないが、それをやるぐらいなら登攀技術を磨いたらどうだろう。彼は大学の登山部が登れる壁すら登れなかったというのだ。
・シェルパが亡くなった翌日、テントの外で撮影用の凧揚げをしていた。シェルパたちの中で「こいつは登る気がない」という雰囲気が漂ったという。
栗城の先輩の若手起業家、山本壮一氏の栗城への評価は「おめでたい人」。
偽者というより「誇大広告」で「詐欺師」でただの「テレビ屋」。
そう思い、この人の登場するテレビ番組は全く見なかった。
なので、エベレストで滑落死の報を聞いて非常に驚いた。あのレベルの人がそんな無謀なことをやったのかと。
そして改めてこの本を手に取った。むしろ死してから興味をもった。
そしたら案の定、お笑い芸人になるために一時期吉本の養成所に入ったそうじゃないですか。
これは完全にテレビ屋ですね。
「それにしたって6大陸最高峰行ったのは凄い」と人はいうかもしれないが、 はっきりいって処女峰でもない手垢にまみれた山のルートなら、残置ロープやらなにやらたくさんあるし、若いうちは体力で凄い山も登れちゃう。
一人だとしても他のツアーやパーティーの後を付いて行けばいいだけだ(実際他のパーティーがおいて行ったテントを勝手に使ったこともあったという)。
曲がりなりにも「登山家」というならば、未踏のルート開拓や、既知のルートでも誰もなしえてない条件で登頂することが必要だと思う。
で、結局若さと勢いだけじゃどうにもならなくなって、技術を磨いてこなかったため滑落に至った。ただそれだけ。
「この人は山が好きなのではなく、有名になる手段として山を選んだだけ」と確信。
本来、山が本当に好きなら日本の山にどんどん登りにいくのだ。それを講演会に時間を費やしてほとんど登りに行っていない。しかも北海道の羊蹄山に、冬とはいえ玄人なら一般人でも登れる山を登れなかったという。
彼が登山界に近寄って技術を磨いてこなかったことからも、王道の研鑽を怠ったということだろう。
それにもまして明らかになる驚きの事実…。
・アイゼンやピッケルなど、命を預ける道具を人から借りる。手入れして返さない(手入れの方法も知らなかったのだろう)。
・間違った健康法(タンパク質を食べない「マグロのような体が理想」という弁)
・間違ったトレーニング(藤原紀香の行っていた加圧トレーニングを実践) 加圧トレーニングを否定するわけではないが、それをやるぐらいなら登攀技術を磨いたらどうだろう。彼は大学の登山部が登れる壁すら登れなかったというのだ。
・シェルパが亡くなった翌日、テントの外で撮影用の凧揚げをしていた。シェルパたちの中で「こいつは登る気がない」という雰囲気が漂ったという。
栗城の先輩の若手起業家、山本壮一氏の栗城への評価は「おめでたい人」。
「そのおめでたい人をなぜかみんなが支えてしまうんですよ。そこが彼の最大の魅力というか、最大の恐ろしさというか」
この一文にすべて詰まっている気がした。
純粋で面白いことを見せたい、共有したい。その思いはぶれなかったとは思うが、エベレストはその思いだけでなんとかなる場所ではないし、人命を軽視しないために人一倍努力しなければならないのだ。実際シェルパもなくなっている。だけど、30を越えてそんなことも理解できないのかと人は離れていった。
故人が何に挑戦して何で命を落とそうが自由だ。だがこの人の悪行は一般人が勘違いすることをわかっていて確信的に「7大陸単独無酸素」というキャッチフレーズを用い、正当な評価を受けるべき登山家からその機会を奪ったことだ。
純粋で面白いことを見せたい、共有したい。その思いはぶれなかったとは思うが、エベレストはその思いだけでなんとかなる場所ではないし、人命を軽視しないために人一倍努力しなければならないのだ。実際シェルパもなくなっている。だけど、30を越えてそんなことも理解できないのかと人は離れていった。
故人が何に挑戦して何で命を落とそうが自由だ。だがこの人の悪行は一般人が勘違いすることをわかっていて確信的に「7大陸単独無酸素」というキャッチフレーズを用い、正当な評価を受けるべき登山家からその機会を奪ったことだ。
スティーブ・ジョブス [ヒューマンドラマ]
こちらを観るのだったらマイケル・ファスベンダー主演作を勧める。 当時アシュトン・カッチャーが似ていると話題になり絶賛されていたため、その記憶が残っていたためか少し期待しすぎた。
ジョブスがなぜ天才と言われるのか、ウォズとの決定的な考え方の違いがはっきりとはせぬまま、肝心なところが省略されてしまったように感じる。
ウォズはユーザーがosに手を加えられるような仕様にしたかったが、ジョブスがそれを否定したことが決定的な決別の原因になったと、本で読んだ気がする。
経営者としての描き方も、言うが易しで一方的に要望を突きつけているようにしか見えない。
人々を閃きへと導く手腕があったからこそ崇められているのだと思ったが、その才能の片鱗は描かれず。
非アップルユーザーとしては、彼の凄さが伝わらず物足りない作品でした。
黒い司法 0%からの奇跡 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★75点
■裁判に勝つことよりも、重要なこととは
本来は〈裁判に勝つ〉ことが重要なはず。冤罪であれば尚のこと。
しかし、〈真実を証言してくれる人間がたった一人でも現れたこと〉で被告のウォルターは救われるんですね。
その発言は大きな嘘や権力の前にたった一粒穿たれた水滴かもしれないけど、自分のために公平な証言をしてくれる人がいて、その証言が信じてもらえなかったとしても、聴衆がそれを聴いている。
それだけでいかに心が救われるのか。それを教えてくれた映画だった。
弁護士によっては、裁判に勝てなければ負けなのかもしれない。
だが肉体の牢獄よりも心が解放されること、こちらのほうが人間にとっていかに大切か、それが身に沁みた。
黒い司法 0%からの奇跡 ブルーレイ&DVDセット (2枚組) [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
- 発売日: 2020/06/17
- メディア: Blu-ray
本来は〈裁判に勝つ〉ことが重要なはず。冤罪であれば尚のこと。
しかし、〈真実を証言してくれる人間がたった一人でも現れたこと〉で被告のウォルターは救われるんですね。
その発言は大きな嘘や権力の前にたった一粒穿たれた水滴かもしれないけど、自分のために公平な証言をしてくれる人がいて、その証言が信じてもらえなかったとしても、聴衆がそれを聴いている。
それだけでいかに心が救われるのか。それを教えてくれた映画だった。
弁護士によっては、裁判に勝てなければ負けなのかもしれない。
だが肉体の牢獄よりも心が解放されること、こちらのほうが人間にとっていかに大切か、それが身に沁みた。
エスケープ・ルーム [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★60点
●B級ホラーかと思いきや、さにあらず
エスケープ・ルーム ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2020/06/03
- メディア: Blu-ray
流行りの謎解き脱出ゲームを舞台に、命を賭ける羽目になった挑戦者たちの姿を描く。
ソウやcubeなどの類型物かと期待していなかったら、意外と見応えがあった。
意外な人物が奮闘したり、ラストも二転三転。
一見何のつながりもない招待客に共通点があったり、その過去にも隠された一面があったり。
ただインド人の若者だけ設定が甘かったのが、ちょっと惜しい。
金持ちの余興、ただそれだけで翻弄される命。
マネーゲームで搾取される途上国の人たちの姿にも重なる。
余談だが生き残った二人のアフターの清潔感がすごい。こんなに身なりで印象変わるのかという好例(笑)。
続編はあるのか?二人の雑草魂見せてくれ!