ミスター・ガラス [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★85点
■これは予想をはるかに超えた良作。カテゴライズされたジャンルに惑わされるな
自分の能力を否定された者の苦しみ。
自分の信じる者を否定された者の悲しみ。
まさかのまさか、最後はどこかにいる“虐げられた者たち”の(精神的な)解放を予期させる胸熱な展開で、感動すら覚えた。
「アンブレイカブル」が、このような結末で帰結するとは思わなかった。とにかくおもしろい。随所に何かが起きる予感を張り巡らせたカメラアングルもよく、最後まで緊張の糸がとぎれず、二転三転、どう結末を迎えるのか予想できなかった。
能力あるものは、その驚異を誰かに異常と定義され、平均であれと抑圧され、社会の隙間に落ち込む。平凡な権力者たちは制御しやすい社会を構築しようとする。
そんな現実を物語に投影しつつ、アメコミが人間の妄想ではなく、人間の可能性を示しているという解釈が素敵。そこには善vs悪という単純構造ではなく、人間の可能性そのものを否定する存在との闘いがあった。
アンブレイカブル当初からこの構想があったのか? あったとしてもなかったとしても、ここまでまとめあげて全く予想だにしないメッセージをぶちこんでくるとは!
これは近年最高にお気に入りの映画の一つとなった。ジェームス・マカヴォイの演技も必見!
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イコライザー/ザ・ファイナル レビュー&リンゴの謎は [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★75点
■孤高の仕置き人、影の存在から陽の当たる場所へ
1.2のように、マッコールがそのスキルを生かして悪党をバタバタと倒していく場面は少なめ。
魅力的なカフェ店員や優しい医師など住民の密度が高めのイタリアの小さな町は彼を優しく包み込み、コミュニティーが複雑でバラバラにほどけたようなアメリカの町では際だっていた彼の孤独を払拭した。
そんな町も、マフィアによる地上げという闇に取り込まれそうになる。
マッコールは今まで陰に隠れて活躍していたが、今度は住民の前に姿を現し、堂々とマフィアと対峙する。
マッコールの暗殺スキルは前2作で十分に描いたから、今度は彼が安住の地を見つける心の旅路を描いたというような、今作。
1.2作目よりバイオレンスの尺は少ないが、守る対象が人から町に変わったマッコールの決意を示すかのように彼の残虐性は濃くなったと感じた。それにしても、ボスがあまりに弱くて物足りなかった。どちらかというと、マッコールの方が悪役に見える凄みがあり、レストランの端から睨みを利かせるシーンなどはマフィアじゃないけど身がすくむ。
最後の最後に、伏線をささっと回収していき、最後は爽やかな感動を呼ぶ。
人生を前向きに生きようとするマッコールの背中を見て、安堵と一抹の寂しさを感じた。
そういえば2のラストで小さなリンゴを五つ並べていたけれど、今回もボスの死を見届けた後にリンゴを齧っていた。リンゴと言えば、聖書、禁断の果実。リンゴを食べる前のイブのように無垢さを取り戻したいという願望のアイコンなのか、それとも自分はリンゴを人間界にもたらせた悪魔の象徴なのか。しまわれた時計と共に、もう見ることはない儀式の一つとなってしまった。
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聖地には蜘蛛が巣を張る [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
■怒りにふるえ、ぞっとした
貧困ゆえに身を売る売春婦を、浄化と称して殺害した連続殺人犯サイード・ハナイの実話を元に描かれた作品。
怒りにふるえ、ぞっとした。
この映画の核心は、サイードが捕まった後半からといえる。
頭の中でずっと、この世界はおかしい!という言葉がぐるぐると回っていた。
そもそも淫らな欲求を満たしているのは男性の方で、女性側ではない。売春婦を堕落した存在で死に値するというのならば、買う男も堕落しているじゃないか。
先進国で商売としてセックスが男女対等に成立している場所はあるが、イランで売春に身をやつす女性はほとんどの場合、生活の術としてそれしか選択肢がないのだ。
女性の登校を禁止→文盲、知識の低さ→働けない→てっとり早く売春に身をやつす。
この悪循環を生んでいるのは絶対的男性優位社会であり、ひいては売春婦を生む原因となってるのは男性側にあるといえる。そのことに何故多くの人が気づかないのか?
いや、気づきたくないのだろう。自分たちは「正しく」権力を振るう側の存在で居続けるために。
恐ろしいのは、犯人が捕まった後。殺人犯を讃える世論。殺害された女性の家族に対する、脅迫。夫は正しいことをしたとのたまう妻。
基本的人権の欠如と、神の名を口にすれば赦されるという構造の社会の精神性の恐ろしさ。
中でも嫌悪を感じたのはハナイの妻を筆頭とした、自分の保身しか考えない女たちである。殺された女性たちにも人生があり、悲しむ存在がいることをつゆとも考えない。彼女たちにとって、殺されたのは生まれつき「売春婦」という生き物であって、唾棄すべき存在。
事情があり一時的に体を売ったのでは、などと同情することすらない。自分の娘も、同じように虐げられる可能性のある社会だとも気づかずに。実際、選択の自由がないことに不自由を感じず、偏見を偏見と思わない保守的な女性たちも、イラン女性の内なる敵なのだろう。
本物のハナイは言った。
「彼女らは私にとってゴキブリと同じくらい役に立たなかった」
ふざけるなと。命はその人自身の物で、生殺与奪権など誰にもない。
以前別の機会で知ったが、ヒジャブの起源は不明とのこと。日除け、民族衣装、土着信仰にイスラムの教えがミックスして今に至るとされる。
元々、古代ローマ時代から十字軍、そして現在に至るまで中東は戦争の歴史。本来は主不在の時、敵による拉致やレイプなどから妻や娘を守るために、美しいところを隠しなさいとしたのでは、という史料見解があり、コーランにはヒジャブそのものの記述はないという。しかし今や、イランではヒジャブ一つで殺されてもおかしくない事態となっている。
いつしか「教え」は権力を振るう者の都合のいいように行使され、女性や子どもを所有物のように扱えるものとなった。選択の自由を誰もが行使できる世界の実現は遠いと感じる。外からできることは僅かだからだ。それでも遠い世界から遠い世界のことを知ることで、間接的に少しでも何かできることはあるはずだ。そう思いたい。
リトル・シングス [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
■真実と事実は似て非なる物
デンゼル・ワシントン、ジャレッド・レト、ラミ・マレックのオスカー俳優が揃い踏み。
しかし、日本では非公開。
確かに邦題もつけずらく、内容も華々しくうけるものではなく、すっきりするものではない。
だけど、セブンなど他にもたくさん救いのない映画が公開されてきたにも関わらず、緊張感のあるサスペンスでありながら、色々深く考えさせられて心にさざ波を起こすこの本作を未公開にするのは、ちと惜しいのではないか。
時代背景もやや古く(脚本の構想が数十年前だとか)、スマホなどは登場しない。
だからこそ成り立つ心理戦のおもしろさがある。
スパルマは真犯人なのかどうか、結局分からない。しかしディーコンの中では犯人だし、スパルマが殺されたことで連続殺人がやむのであれば、逆説的に彼が犯人だった可能性が濃厚になるので、彼もそれでいいと思っている。 強迫観念に苛まされてきたディーコンにとっては、この結末は一つの決着だし、スパルマとの会話や高速道路でのやりとり、自分だけしかしらない細かな「事象、事実」の積み重ねが、彼が犯人だと確信するに至っている。
たった一つの弾痕、たった一つの髪留め。ディーコンの台詞の対象とは違うが、「リトル シングス」が運命を左右するのだなと、深く感じ入った。
罪を犯した心はどのように救われるのか?
真実とは、本来は事実に依るものであるべきだとは思う。ただ、見たいものを見ることで救われる人生がある。 それが善いことであるかどうかは断ずることはできないが、ただ人が信じたいものを信じることで、前に進める生き物だということは事実。 三人の演技は目を離せないものがあり、見応えのある作品だった。
私は確信する [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
物的証拠がないまま突き進む裁判のなか、あらためて「推定無罪」の重要性を説く弁護士の姿になんと安堵したことか。人が人を裁くことの危うさを思い知らされる。
黒い司法 0%からの奇跡 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
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本来は〈裁判に勝つ〉ことが重要なはず。冤罪であれば尚のこと。
しかし、〈真実を証言してくれる人間がたった一人でも現れたこと〉で被告のウォルターは救われるんですね。
その発言は大きな嘘や権力の前にたった一粒穿たれた水滴かもしれないけど、自分のために公平な証言をしてくれる人がいて、その証言が信じてもらえなかったとしても、聴衆がそれを聴いている。
それだけでいかに心が救われるのか。それを教えてくれた映画だった。
弁護士によっては、裁判に勝てなければ負けなのかもしれない。
だが肉体の牢獄よりも心が解放されること、こちらのほうが人間にとっていかに大切か、それが身に沁みた。
エスケープ・ルーム [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
●B級ホラーかと思いきや、さにあらず
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流行りの謎解き脱出ゲームを舞台に、命を賭ける羽目になった挑戦者たちの姿を描く。
ソウやcubeなどの類型物かと期待していなかったら、意外と見応えがあった。
意外な人物が奮闘したり、ラストも二転三転。
一見何のつながりもない招待客に共通点があったり、その過去にも隠された一面があったり。
ただインド人の若者だけ設定が甘かったのが、ちょっと惜しい。
金持ちの余興、ただそれだけで翻弄される命。
マネーゲームで搾取される途上国の人たちの姿にも重なる。
余談だが生き残った二人のアフターの清潔感がすごい。こんなに身なりで印象変わるのかという好例(笑)。
続編はあるのか?二人の雑草魂見せてくれ!
アオラレ [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
■ラッセル・クロウの怪演はまあ見物だが、既視感のある内容
近年問題になっている、煽り運転。
それほど車社会でもない日本で、アメリカと同じようなことが起きている不思議。社会の歪みまで、アメリカのクローンのような日本。
ただ、ドライブレコーダーがない時代と比べて、本当に現代で煽り運転が増えたのか比べられないのでは?とも思う。実際、交通事故は年々減ってるし。このようにストレス社会であることを強調して観客に刷り込ませてしまうと、運転しているときにふと思い出して、必要以上に警戒感や緊張感を持ってしまわないだろうか。それが逆に、犯罪者扱いしやがって!と相手の怒りをかうこともありそう。
それとも、主役のレイチェルより男の視点に立って、躊躇なく車をなぎ倒して暴れまくる様に多少スカっとする人もいるかな?何にせよ、遅刻や寝坊を人のせいにせず、歩み寄りを見せた相手に対して無駄に喧嘩を売る必要はないという教訓めいた話。
何故わざわざラッセル・クロウがこの役を選んだのかはわからないが、役自体は小物なのに大物に見えるあたりはさすが。役作りで太らせても、ダメンズというより貫禄が出ちゃった。
それよりも、人も車も多すぎる、というセリフが気になった。だからSDGsひいては人口削減は必要、という現代の考え方を肯定し迎合するような…それは考え過ぎか。
ミッドサマー [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
■コミューンからイニシェーションされたことで、自立する女性を描く
70年代によく作られたカルト系B級ホラーの要素を持ちつつ、あくまでもポシティブな狂喜を描き通す、という斬新さも感じた。
もし古代儀式を現代に再現したら、もしかしたらこんなものかもしれない。
生贄というそれ自体は神への捧げ物として祝福されたものであるはずだが、やはり生贄に与える苦痛は見ている側へもストレスを与えること想像に難くない。悲鳴や奇声をあげてトランス状態に陥ることは、罪悪感や恐怖を軽減させる効果もあるのだろう。
自然信仰の祭り=祀りを肌感覚で理解できる日本人には、村で行われていることがそれほど奇抜で滑稽には映らないのではないだろうか。
しかし他のレビューでも突っ込みが多かったが、90年に一度という設定の割には、村民が殺人などに慣れすぎていると思うし、そのサイクルにした必要性が全くわからない。
まあ現代で4.5年単位でこの祭りが行われていたら、流石にSNSなどでバレそうだとは思うが、せめて日本の式年遷宮ように20年周期ぐらいが妥当では。
しかも、ペレのように、村民たちはこの祭りのために戻ってきた者も少なくない様子。ということは、生贄を捧げることで村民の人口を一定に保つ必要性も全く感じない。村の中で近親相姦しなくても、いくらでも外部へ赴き血を新しくすることはできる。
そういう地理的制約があいまいなままなので、カルト的コミューンからの脱出劇というスリリングさは弱い。主役のダニーが彼氏への依存体質から脱却するというもう一つのストーリーが平行して描かれるが、彼女らの身に起こる倦怠期はカップルに起こりえる普通のことだよな…と思い返すと感情移入も今一つ。
しかし私には、「だからなに?」という程度の感想しか持つことができなかった。
ドント・ブリーズ [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
ドント・ブリーズ [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
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- 発売日: 2017/10/04
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唯一の問題は若者にも老人にも感情移入しにくいこと。
老人の気持ち悪い思考回路と、老人のあれを口に突っ込み「これでもくらえ」(というセリフだったかは定かではない)と反撃する場面は、生理的嫌悪感が酷すぎて記憶に残る。