リドリー・スコットの描く「ナポレオン」 [戦争ドラマ・戦争アクション]
■軍師としてのナポレオンの魅力は皆無。鋭利さも狡猾さも描き切れていない
王制打倒した後、船頭が多数現れ消えていった混乱のフランスを、ほの暗く灰色の色調で彩る。
戦闘シーンは圧巻、イギリスやロシア入り乱れるワーテルローは関ヶ原もこうであったのかなと思わせる迫力があったが、肝心のナポレオンの描き方はというと、英雄のカリスマ性も戦略家としての知性も描かれず、物足りなかった。
とはいえ、底冷えする瞳をしたホアキン・フェニックスは、かつて映画「グラディエーター」で演じた皇帝ネロの時のようにつかみ所のない恐ろしさも醸し出していたので、真っ当にナポレオンを描く映画に出たらもっと英雄然としていたかもしれない。うーん、リドリースコット監督は、ナポレオンを信念と大儀なき英雄としてとらえたのだろうか。前作の「最後の決闘裁判」のように登場人物の心理描写と駆け引きを主軸にするのであれば、これほど大がかりなロケは不必要だったのではないかとさえ思える。
ハクソー・リッジ [戦争ドラマ・戦争アクション]
「ハクソー・リッジ」スタンダードエディション [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: バップ
- 発売日: 2017/11/03
- メディア: Blu-ray
1945年3月26日から始まった沖縄戦は6月23日に終結。浦添城跡は戦争中、日本軍からは「前田高地」、米軍からは「ハクソーリッジ」と呼ばれた。
ドスが銃を持たない理由は信仰心よりも、父を苦しめた戦争の象徴そのものであることと、そんな父を更に打ちのめした自分の行為を畏れ、また、恥じたからでもあるのだろうと思う。
心を守るために信仰するのか・信仰が心を守るのか、どちらが先かはわからないけれど、それが戦場において彼がパニックにならず、やるべきことが明確になった大きな要因なのだろう。
自分だけ安全圏にいて戦場にいかないことは国民として公平ではない、しかし銃を持って人を殺すより、傷を負った者を助けたい。彼の中では矛盾せず愛国心と博愛心が同居している。
それは他人にはなかなか理解しがたく、敵を殺めることのできない臆病者だと勘違いされるが、そもそも銃も持たずに戦場にいること自体がとても勇気の要ることなのでは?と思う。
実際、戦場においては人を殺すより、人を助ける方がずっと難しいのではないだろうか。
ドスの祈りが皆に与えたものは、束の間の心の平穏。
それはまさしく、信仰が狂気に勝った瞬間でもある。
きっとドスの助けた日本兵は他の米軍人には見捨てられたのだと思うけど、彼の行いは決して無駄ではない。
その行為を見て、改心した人もいるだろうから。こういう信念のある人が生き延びてくれて、本当に救われた気持ちになった。
オペレーション・ミンスミート [戦争ドラマ・戦争アクション]
■遺体に与えた嘘の人生と、戦時下でのリアルな人生が交錯し小説のような面白さ
味方さえも疑わなくてはならない状況下でナチスを欺くことができるのか 第二次大戦中、「ナチスを欺くために偽造文書を持たせた遺体を流す」というイギリス政府による奇抜な作戦が行われた。
名付けて「ミンスミート(ひき肉)作戦」(それにしても生々しい作戦名だな)。
これが実話であり、さらにはあの009の生みの親、イアン・フレミングが提唱した作戦だというから驚く。
報道されているのはほんの氷山の一角で、世界の上っ面の茶番の1%しか知らないんだろうな、市民の私たちは。ということを否が応でも知らしめられる。
中立国のスペインに存在するドイツ人スパイに、なんとかして「偽の攻撃対象(ギリシャ)を書いた機密文書」を目撃させなければならない。連合軍はその裏をかいて、シチリアに上陸したい。
スペインにはイギリス諜報部の息のかかった三重スパイと、その三重スパイを二重スパイと信じている勢力、そして「反ヒトラー」勢力もウロウロしている。とはいえ、イギリスは敵国のことをまるで知らないわけではなく、MI5はスペインにいるドイツ人スパイのことを詳細に把握している。
そのスパイを暗殺するなどはせず、敢えて泳がして、必要な情報与えたり隠したりするから(不謹慎だが)諜報戦は面白い。
三重スパイは女も男も相手にし(彼が一番活躍したのではないだろうか)、まさに伏魔殿。
そして主役の一人モンタギューにも、スパイ疑惑がふりかかる。
弟が共産党員との噂があり、恋敵ということも相まって、同僚のチャムリーは猜疑心に陥る。
母国で物理的に離れた場所の敵への策略を練りながら、仲間をスパイせねばならない悪条件に加え、更にはなんとレストランのウェイター、テッドが実は謎のスパイだったことも判明する。
モンタギューは結果白だったが、作戦は最後まで成功したのか不確定要素が多く、終始ハラハラさせられた。
チャーチルのセリフで、「スパイ活動の渦に飲み込まれると、いつのまにかめぐりめぐって自分の尻を見ている」というようなのがあったが、諜報活動だけに囚われていると視野狭窄になり、何も決断できなくなるのは事実だろう。だからこそ、チャーチルはミンスミート作戦が成功したか否かに関わらず、成功したものと信じてシチリア上陸を決行する。
この後にチャーチルの承認も得てアメリカが日本に原爆を落とすことを考えると手放しで喜べない自分もいるが、リーダーシップのなんたるかが、垣間見えた気がする。
この映画には二つの噓の死体がある。 一つは作戦に使われ、上官に仕立てあげられた遺体。
もう一つはチャムリーの戦地で行方不明になった兄。
多数の命を左右した死体と、一人の母親の心を救った死体。
とても皮肉だ。
スペインに眠るイギリス人将校の墓にそんな秘密が隠されていようとは、誰も夢にも思わなかったに違いない。
ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の法化 [戦争ドラマ・戦争アクション]
■ロシア人の自虐史観も交じる
ホワイトタイガー ナチス極秘戦車・宿命の砲火 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
- 発売日: 2020/04/24
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これは予期せぬ争いや災いは、預かりしらぬところで起こるということを示唆しているのだろうか。
終盤、ヒトラーの口からロシアの自虐史観的な台詞が飛び出す。
ロシア人=スラブ民族なのだから、もし西側ヨーロッパ人が割とそのような価値観を共有してるとしたら、ロシアが西側とは違う、と頑なになるのもわかる。
生のロシア人とは知り合いではないが、フィギュアスケーターが意外とユーモアに溢れた演技をしたり、サービス精神溢れるパフォーマンスをするので、そんなに真面目で陰気にではないのでは?と思ったりもする。
話としては、戦争に膿んでいるのか、人間に絶望しているのか、諦観した雰囲気が終始漂い淡々とすすみそして終わった。戦車同士の激突も、本物を使っているとはいえ、迫力はそれほどなかった。
スパイの妻 [戦争ドラマ・戦争アクション]
■見事にお粗末!
内容の前に、映画としての手抜きが気になってしょうがない。
セットが安っぽい!邸宅も憲兵詰め所も会社の倉庫も、神戸の洋館?三菱一号館美術館?どこかでみたな…っていう。いや、借りてるんだろうけど、小物を数点置きました、というおざなりの雰囲気と借り物感が半端ない。特にドラマの中心となる肝心要の、邸宅内の生活感が全くない。
そして特に!家や路面電車の窓の「白とび」、光での誤魔化しがひどい!
私にはアニメの背景処理で屋外の書き込みを省く「白とび」にしか見えなかったんだけど、違うの?
背景や風景を作り込むのに金がかかるというのなら、映画なんて撮るんじゃないよ。
元はドラマなのかもしれないけどさぁ。
ほんと、これでベネチア国際で銀獅子賞?海外で受賞する作品は、忖度あったとしても完成度高い作品ばかりだと思ってきたけど、今回の授賞でがっかりした。
これが舞台劇だったらセットにはまだ目をつぶるも…。舞台といえば、やたら仰々しいせりふ回しの蒼井優の演技も上滑り。
戦火の街並みもしょぼいというか印象でしかなく、そのあと海辺で泣くシーンも不必要。
歌舞伎の遠見のようなぼやを前にして「お見事です」とかいわれても。旦那が日本を敗戦に導いたわけでもあるまいし。
夫婦二人の関係性に深みが見えない。夫のだまし討ちが妻を守る為とは思えず、かといって正義のために闘うという信念も感じず、重荷になった女を捨てたようにしかみえない。
大層な大義名分を掲げてはいるがただ単に自由になりたくて、アメリカに密航したようにしか。
最後のテロップは、それでも夫にしがみつこうとする女の哀れな執念か。
台詞も演出も、出演人数も全部手抜きと陳腐さが漂う。旅館の前、尾行者しかおらんやんけ。踊り場で取り調べ、おかしいやんけ。密航用の木箱、あからさまに一つだけ飛び出てるやんけ。
731部隊の所業をばらしたら、アメリカが参戦する?この理屈が一番アホや。
話の展開もかなり読めたし、というかそもそも旦那はスパイじゃないし。
作り手はこれでいいと思ってるのか?邦画はもう時代物撮っちゃだめだ。
名もなき生涯 [戦争ドラマ・戦争アクション]
- 出版社/メーカー:
- 発売日: 2020/07/08
- メディア: Prime Video
ドイツに併合されたオーストリア。
ヒトラーへの服従を死ぬまで拒み続けた名も無き農夫、フランツ。
権力側は問う。お前が死んでも世の中は何も変わらないと。
自分が悪だと思う者に対して、ただ自分の心に背くことができないだけ。
仮に忠告を受け入れ生き延びたとして、彼は自分自身を一生許せないだろう。
彼の目に映る世界は美しく、自然の中に神が宿るという感覚がマリックによって研ぎ澄まされ、没入感たっぷりに観客を誘う。土や干し草の匂い、竈の炎の熱さやパンの香り。露草と朝もやの湿気まで感じられるようで、日々の営みへの愛おしさを募らせる。そして問う。ただ単に愛する者と自然とともにつつましく生きたいだけなのに、なぜそれが許されないのだろうかと。
コロナ下の現代と重なる。
フランツの住む村の村人たちのように、いつの時代も自分の保身しか考えていない人が多勢の中で、孤立を恐れず、死を賭してまでヒトラーへの不服従を貫いた彼の勇気と、それを受け入れる妻ファニの信念に心打たれました。
ならば勇気をもって戦争に不服従を貫けば、庶民の数で公僕を圧倒できるはずなのに、大多数の人は易きに流れてしまう。
本物の英雄とは…と考えさせられる。
異端の鳥 [戦争ドラマ・戦争アクション]
http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/
満足度★70点
パンフレットを読むと、原作は作者の実体験に忠実なものではないらしい。
それを知って少し安堵した。一人の人間がこれほどまでに完璧な悪意の数々に出くわすだろうかと訝しんでいたからだ。
この映画は少年に向けられた悪意というより(もちろんその場合もあるが)、少年の目を通して人間の獣性を露わにしていくもので、モノクロの画(え)はどこか暗くて恐ろしいおとぎ話のような凄惨な美しさを秘めている。
使用人との浮気を疑い妻に暴力をふるう夫、息子が穢されたと激高し売春婦の膣にボトルを差し込み殺す主婦たち、敬虔なクリスチャンのふりをして少年を手籠めにする農夫。
閉鎖的な空間で自分が優位に立ちたいという生理的な欲求と虐げられる弱者。
一番心に堪えたのは、逃がすふりをして小鳥をペイントし、仲間の群から攻撃させるようにし向けて殺されるさまを楽しんでいた鳥飼のエピソード。
自分よりも弱い動物を守り涙する心を持っていた優しき少年は、次第に感情を失っていき、しまいにはある女性への失恋から彼女の家畜のっ首を切り落とし投げ入れるまでの攻撃性を見せる(ゴッドファーザー2を思いだした人は私だけではあるまい)。
少年の旅する世界は架空の世界で、言語はスラブ語をベースにしたこれまた架空のものだという。
ラマの女性や、コサック、ロシア兵などの実在の名詞は出てくるが、地域を限定しないことでより抽象的に描けるからだろうと思う。
戦時下の人間は自分本位になりがちだが、兵士以外の人間はこの映画のようにむき出しの攻撃性を持つものではなく、積極的な消極性が際立つものだと個人的には思う。要するに「苦しむ人を助け〈なかった〉」「捕虜に水をあげ〈なかった〉」「病気の人を防空壕にいれ〈なかった〉」「みなしごを見殺しにした」などなど…。
何が言いたいのかというと、登場人物の行動は残虐と非道という点でステレオタイプで多少芝居がかってはいるということ。
ただ、このレパートリーに自分の中に眠る、発露していない悪意がいつ首をもたげる時がくるのかという潜在的な恐怖を感じた。
ジョジョ・ラビット [戦争ドラマ・戦争アクション]
満足度★95点
■靴ひもに愛を込めて
あくまで10歳の少年から見た戦争。弱虫のジョジョにとって、ヒトラーは英雄だし、ユダヤ人は得体の知れない悪魔の手先。でも、ユダヤ人の見分けがつかない。
ママが屋根裏に隠した年上のユダヤ人エルサは信用できないけど、ママのためを思うと通報できない。だったら僕がユダヤ人のことを研究しなきゃ!
冒頭ビートルズが流れ、グルーピーよろしく女性が黄色い悲鳴をあげているヒトラーの映像と被る。当時のドイツでヒトラーがどういう存在だったかよくわかり、非常に端的で効果的。
少年達もしかりで、彼は敵をやっつける英雄。日本での乃木将軍みたいなもんだ。
父は遠くへ行き、姉も死んだ。戦争のリアルを知らないジョジョの目には、それでも世界は瑞々しく、ドイツは正しい国だった。
そんなジョジョの純粋さを愛しく思いつつはらはらしながら、物語は進んでいく。
そして・・・ジョジョの目線で踊っていたママの靴が、あんな風に眼前に突きつけられるなんて。
思わずエルサに突き刺した短剣が痛々しくて、可哀想で切なくて。憎しみと寂しさと恋しさが小さな肩に一気に押し寄せ涙を誘った。10歳の子供には荷が重く、後ろから抱きしめたかった。
しかしジョジョを待ち受けた運命は過酷だけど、彼は大きな愛に包まれてもいた。決して息子の思想を拒否せず、ありのままを受け止めつつ、正しいと思うことを伝えるママ。
一見忠誠を誓う党員のようでありながら、ジョジョとエルサをこっそり庇ってくれたクレンツェンドルフ大尉役ことキャプテンK。
最後、ゲイを示すピンクのマークをつけたフィンケルと、好きな衣装を身にまとって敵に向かっていく姿はかっこよかった。差別とはなんたるかを知ってるけど、どうしようもない時代の流れの中で、自分のできることをして二人を守ろうとしてくれた。
街が戦場になりジョジョは戦争のリアルを知り、架空のお友達ヒトラーを捨てる。
めまぐるしく過ぎ去った時は、靴ひもが結べるまでジョジョを成長させた。
振り返ると、この映画の登場人物はみんな根っこの部分は純粋で善人。自分の国を盲信するのは危険だけど、それが普通の人間なんだろう。大きな意志の流れにはきっと違う考え方の小石もたくさん混じっているはずなのに、なぜそれらは岩になれないのかな。
最後、デビットボウイの曲が聞こえ、二人は笑顔を見せる。踊るのよ!とママが言ったとおり、心の中に希望という音楽が鳴り響く。
世界が戦争に傾きそうになったら、この映画を思い出そうと思う。悲観的になったり絶望したりすることが、戦争に荷担することになるのだから。
ナチス第三の男 [戦争ドラマ・戦争アクション]
■虚ろな人物
前半のトントン拍子に進むハイドリヒの出世物語に、彼の残虐性や周囲に認められた有能さが描かれず物足りなさも感じたが、もしかしたらそれこそがこの男の恐ろしさなのかもしれない。
彼からはヒトラーやゲッペルスら稀代の戦争犯罪者たちにみられる、(それが人間性を著しく欠くとしても)信念というものが感じられなかった。 妻になるリナに出会うまではナチス党やヒトラーにまるで関心が無かったし、思慮もなく上司の娘と関係を持ちそれが元で失脚する。自分の居場所を求めてはいるが、どこで己の野心を発現すればいいのかわからずに、刹那的に生きているようにも見えた。
ハイドリヒの残虐性がどこで発露したのかは描かれないが、それはこの男に生来備わっていたものがリナによって見いだされたにすぎず、そこに「解」を求めてもしようがないのかもしれない。
どういった感情であれ、何か熱情的なものが欠落しているようにみえ、相手をいたぶることに特別な快感を覚えている様子もない。冷徹に仕事を進めることで、みずからの虚無感を埋めるかのよう。
どんな悪人にも、その残虐性に秘められた強烈な劣等感や純粋なサディスティックさ、妬みやそねみ、誤った選民思想、殺したくなるほど憎らしいと思わせる一種の人間らしさが感じられるのだが、彼には全くそれがなかった。
冒頭のセックスシーンは不要かとも思われたが、レジスタンスの若者たちの純粋さと対比して、ハイドリヒの性格をうまく象徴しているのかもしれない。
しかしナチスを描いていながら、ヒトラーもユダヤ人も登場しない久しぶりのナチス映画だった。
どんな組織であれ、強力な権力掌握は内部粛清から始まるのだなと、恐ろしく思う。
そしてもう一つ、自分の信念で人命が脅かされても、それを全うできるかということも考えさせられた。他人の死を必要な犠牲と片づけられない問題がそこにはあり、難しい。
パリは燃えているか [戦争ドラマ・戦争アクション]
■パリがいかにして守られたか
パリを占拠するドイツ軍と、フランス人レジスタンスとの戦いを描く。
群像劇というスケールの大きさを感じられ、ところどころ当時の映像も交えて、見ごたえあり。