カラヴァッジョ~天才画家の光と影 [歴史絵巻・文芸作品]
★満足度70点
■画家を襲うトラウマとは?
劇中のカラヴァッジョのひどい死に様に驚いた。実話かどうか調べてみると、ローマへ許しを得る旅の途中で熱病に冒されて死んだとあったので、どうやら創作らしい。
ただ、波打ち際に打ち捨てられた彼の姿は、今までの行いの報いでもあり、自分を曲げることのできなかった男の末路を象徴的に表しているともいえる。
バイセクシャルで破天荒で、起こさなくてもいいトラブルを常に引き起こし、権力にへつらうことがない人物像は、正に神経質な天才肌のステレオタイプ。
枢機卿という大・大パトロンが自由に寛大に接してくれていたのにも関わらず、しょっちゅう泥酔しては喧嘩して尻拭いをさせ、はたまた高級娼婦を巡りその情夫と決闘の末殺害してしまったりと何かと破天荒。
挙げ句の果てに死刑宣告が下されるが、懇意にしている貴族の力添えでマルタ騎士団に入り、事なきを得る(騎士団にはバチカンの権力さえも届かないという中立性が面白い)。
しかしそこでも挑発されて上級騎士に怪我を負わせてしまう。
命がいくらあっても足りない、正に自業自得。
自画像ではあまりハンサムとはいえないカラヴァッジョだが、劇中では割とハンサムで、イノセントさ故に自分を抑えることができないという、母性本能をくすぐる魅力的な男に変貌。
初期に登場する友人のマリオも恋人として描かれている。
しかし天才というのはどうして普通に過ごせないものなか。
凡人はその命の無駄遣いを惜しむが、非凡とは得てしてそういうものかもしれない。
過敏で繊細だからこそ、感情のエネルギーをどこかにぶつけたい、その「飢え」こそが創作意欲。
だから天才に心の平穏はなく、平穏であれば飢えは起こらない。
天才は欠点だらけだし、また欠点なければ天才とは言えないのかもしれない。
いつまでも若々しい青年のような情熱が、大勢の女性から愛された理由なのかも。
惜しむらくは、再三悩まされてきた「黒衣の死神」のようなビジョンの原体験の描写や創作が乏しく、感情移入を遠ざける遠因となっている。
しかしカラヴァッジョの作品を投影した映像は巧みで、美しい。
神に人間性を投影した彼は、光こそ神聖を帯びたものなのだと直感的に筆を走らせたのだろうか。
光が差す陰こそが存在を示すものだと言いたいのだろうか。
カラヴァッジョの絵画は、闇ではない部分があまりに艶々しい。
この映画は、彼を学ぶに最良の教科書だった。
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