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砕け散るところを見せてあげる [■BOOK・COMIC]

満足度★65点


砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)

砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)

  • 作者: 竹宮 ゆゆこ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/05/28
  • メディア: 文庫

■工夫はされているが、ラノベを払拭しきれていない

 

一人称の視点を変えた小説。
一読すると語り手が変わったことに気がつかないため、混乱するが、時系列が変節した箇所を読み返すとすぐに気がつく。

冒頭から親子のコントまでが主人公の清澄が死んだ後の玻璃と、2人の息子(真っ赤な嵐)の話。
その後の回想が、高校時代の清澄と玻璃の話。

玻璃は、父親から受ける虐待と学校でのいじめなど、辛いことは全てUFOのせいだと現実逃避している女の子。なので、成り行き上父親を殺してしまったことを「UFOを撃ち落とした」と表現されます。
そして、そのUFOを撃ち落としたことで「死んだのは二人」と大人の玻璃は言います。その二人とは…

  • 玻璃のお婆ちゃん⇒人差し指
  • 玻璃のお母さん⇒中指
  • 玻璃の父親⇒親指(玻璃が殺す=玻璃のUFOを撃ち落とした)
  • 清澄⇒薬指(玻璃を助けられなかった後悔から?水難者を助けて溺死=自分のUFOを撃ち落とした)


ということで「UFOを撃ち落としたことで死んだのは二人」、玻璃の父親と清澄。

ここまではただの事実を紐解いただけで、ここから先は「何故清澄の心に新しいUFOが浮かんだか」という疑問を、私なりの解釈で書いていきます。

清澄は、父親殺しというもっとも深い業を玻璃に背負わせたこと、また結果的に助かったとはいえ、自分自身の手で玻璃を助けられなかった不甲斐なさからか、後悔の念を背負ってしまう。
それを⇒新たなUFOの出現と表現

名前を変えた玻璃と「俺たちは再び出会ってしまった」ため、二人は共に清澄の母も含めて三人で暮らす。
しかしそれは名前を変えた「新しい」玻璃であって、あの日のことをなかったことにした仮初めの玻璃。
玻璃も清澄のUFOは見えていたことから、彼の思いは痛いほどわかっている。

清澄はずっと玻璃と名前を呼んでいなかったことから、あの話は新しい玻璃の心の中に封印していたのだろう。
でもそれでは清澄の気持ちは報わず、助けられる命を助けたいというhero願望は消えなかった。
そして、偶然水難者を目の当たりにし、助けに入ったとき、自分のUFOを打ち落とすことができた…。

もしかしたら、UFOは清澄の恐怖心の具現化されたものかもしれない。
玻璃の父親に半殺しにあったあの日、本当は死力を尽くせば動けたのに、彼はどこかで諦めてしまった。殺される恐怖におののいた彼は、玻璃の父親の影に(存在しないにも関わらず)怯えて生きていたのかもしれない(一種のPTSD?)、ともとれる。

ただこの解釈もストンと腑に落ちない。ただの後悔なら一生玻璃の側にいてやればいいわけだし、heroになりたいことへの妄執なのだとしたら、…それにとらわれて、結局新しい玻璃も置き去りにしたことになる。
いずれにしても愛する者を置き去りにして1人逝った清澄に、あまり私は共感できない。

他のレビューで「スマホが光った」のはどういう意味か、と書いているひとがいましたが、あれは玻璃の息子からだと思います。
この描写以前に彼から「台風中の天気レポーターとしてテレビに出る」と着電があったことから、再び無事を知らせる着電があったことを示唆しているものだと思う。

「真っ赤な嵐」という表現は産み落としたときの状態や、新しい生命の比喩だと思いました。
砕け散るところを~というタイトルは、もうそれこそ直接的に父親の頭蓋骨というか、UFOを打ち砕くことでしょうね。

評判の悪い帯の文言の意味は、ただ単に死んでもその細胞は息子に受け継がれているということなのでは。
駆け抜けるように読めるいいお話ですが、ちょっと比喩が陳腐なきもしますし、全体的に台詞が青臭くてラノベ感があります。
筆者はラノベ界で人気だった方のようですね。

そのため、帯が大言壮語だと思われます。ハードルは上げなくていいと思います。
私は清澄が、殺されかけた時に必死で指を上げる場面で、胸をキュッとつかまれました。


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