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風立ちぬ [アニメ]

★満足度85点

HP・・・http://kazetachinu.jp/

風立ちぬ [Blu-ray]

風立ちぬ [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: スタジオジブリ
  • メディア: Blu-ray

主人公が結核の妻の前で煙草を吸うとか、そんなことが取り沙汰された記憶も新しいが、そんな瑣末なことで揚げ足を取るのは下らない。

この作品はジブリお得意の細かな人間の所作を丹念に拾うことで、生々しさというか、五感を非常によく使わされて、観るというより体験させられているように感じた。

関東大震災の中で、濡らした手拭いを絞って水を飲ませるとか、地震のあと「汽車が爆発する!」と早合点し蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人々や、神社のある高台にひしめき合い大八車に荷物を詰め込み疲れきった人々の頭上に吹く旋風。
人間だけでなく、菜穂子の描いたキャンパスが突風に倒されるシーン、大海原のように草むらが揺れるシーンなど、風の表現が素晴らしい。

また、監督自身のように、戦争には反対だが飛行機(戦闘機含む)などの戦争のもたらす副産物に惹かれるという人間の矛盾が、二郎しかりそこここに反映されていたように思う。
たとえば書物を火事から救うため運び出した横で、疲れたからと一服する学生。
菜穂子との幸せな時間を裂く二郎の戦闘機づくりへの執心。

時に矛盾に満ちた行動をとるのが人間で、大きな出来事が起きた中でも日常の振るまいをすることで平静を保とうとするというか、結局普段通りの行動をとるしかないというのが、人間臭さというものではないかとつくづく感じた。

件の議論となった煙草シーン、菜穂子の思いが伝わり、私にとっては胸が詰まる場面だった。
ちゃぶ台で仕事をしている最中に、煙草を吸いに行きたいからつないだ手を放して、と二郎は頼む。
だが、菜穂子は少しでも触れていたいから、そこで吸って、という。
菜穂子は彼の重荷になどなりたくないし、普通の生活を少しでも送りたい。
「普通の」というのは二郎が始終彼女を心配して、布団の中でずっと寄り添うことではないのだ。

二郎は夢にまで見た飛行機作りに携わっている。
戦争が起きて、日本軍に必要な人物となり、そこに使命というものまで帯びてしまった。
本人からは使命感というものは些かも感じられないが、さりとて個人にどんな思いがあろうと、彼が造った飛行機は、国が戦争に使うといったら使われてしまうのである。
ポリシーのある人なら戦闘機づくりは辞めて、反戦争運動に身を投じたりもするのだろうが、これは堀越二郎をベースにしている物語であって、現実にゼロ戦を造ったのだからそこに集約していくしかない。

監督もどう彼を表現するか迷っただろう。
堀辰雄の小説を借りてラブストーリーに仕立てたのは、ゼロ戦にかける男たちのサクセスストーリーになってしまうと、戦争を美化してしまうと思ったからだろうか。

それを受け入れる人もいれば、そうではない人もいるだろう。
だが菜穂子を絡めることで、どんな条件下、状況下でも自分に出来うる限りの精一杯のことをやるしかない、という普遍的なメッセージが盛り込まれたのではないだろうか。未来は誰にもわからいのだから。

無口な二郎の無意識が「カプローニ」の出てくる夢だと私は思う。少年時代はカプローニに先導されるように大志を抱き、なかなか仕事進まないときはカプローニの飛行機も墜落する。
最後にカプローニに誘導されて大草原に出て二郎が「ごめん」と言ったのは罪悪感からだろう。
菜穂子へ割く時間を飛行機作りにぶつけたのに、その夢の結晶は無残に破壊された。
戦争が終わり、ようやっと菜穂子の死に向きあえたと捉えることもできる。

しかし「生ききった」といえる二人の姿には悲劇性は感じられず、不思議な清涼感を与える。
ジブリ史上一番複雑な感情を惹起させる映画だと思った。

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