ジョジョ・ラビット [戦争ドラマ・戦争アクション]
満足度★95点
■靴ひもに愛を込めて
あくまで10歳の少年から見た戦争。弱虫のジョジョにとって、ヒトラーは英雄だし、ユダヤ人は得体の知れない悪魔の手先。でも、ユダヤ人の見分けがつかない。
ママが屋根裏に隠した年上のユダヤ人エルサは信用できないけど、ママのためを思うと通報できない。だったら僕がユダヤ人のことを研究しなきゃ!
冒頭ビートルズが流れ、グルーピーよろしく女性が黄色い悲鳴をあげているヒトラーの映像と被る。当時のドイツでヒトラーがどういう存在だったかよくわかり、非常に端的で効果的。
少年達もしかりで、彼は敵をやっつける英雄。日本での乃木将軍みたいなもんだ。
父は遠くへ行き、姉も死んだ。戦争のリアルを知らないジョジョの目には、それでも世界は瑞々しく、ドイツは正しい国だった。
そんなジョジョの純粋さを愛しく思いつつはらはらしながら、物語は進んでいく。
そして・・・ジョジョの目線で踊っていたママの靴が、あんな風に眼前に突きつけられるなんて。
思わずエルサに突き刺した短剣が痛々しくて、可哀想で切なくて。憎しみと寂しさと恋しさが小さな肩に一気に押し寄せ涙を誘った。10歳の子供には荷が重く、後ろから抱きしめたかった。
しかしジョジョを待ち受けた運命は過酷だけど、彼は大きな愛に包まれてもいた。決して息子の思想を拒否せず、ありのままを受け止めつつ、正しいと思うことを伝えるママ。
一見忠誠を誓う党員のようでありながら、ジョジョとエルサをこっそり庇ってくれたクレンツェンドルフ大尉役ことキャプテンK。
最後、ゲイを示すピンクのマークをつけたフィンケルと、好きな衣装を身にまとって敵に向かっていく姿はかっこよかった。差別とはなんたるかを知ってるけど、どうしようもない時代の流れの中で、自分のできることをして二人を守ろうとしてくれた。
街が戦場になりジョジョは戦争のリアルを知り、架空のお友達ヒトラーを捨てる。
めまぐるしく過ぎ去った時は、靴ひもが結べるまでジョジョを成長させた。
振り返ると、この映画の登場人物はみんな根っこの部分は純粋で善人。自分の国を盲信するのは危険だけど、それが普通の人間なんだろう。大きな意志の流れにはきっと違う考え方の小石もたくさん混じっているはずなのに、なぜそれらは岩になれないのかな。
最後、デビットボウイの曲が聞こえ、二人は笑顔を見せる。踊るのよ!とママが言ったとおり、心の中に希望という音楽が鳴り響く。
世界が戦争に傾きそうになったら、この映画を思い出そうと思う。悲観的になったり絶望したりすることが、戦争に荷担することになるのだから。
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