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この世界の(さらにいくつもの) 片隅に [アニメ]

満足度★80点

2020-02-12T09:24:04.jpg

■隠れた優しさに心震える

私は原作を読み、公開時のバージョンは未見。160分もありながら、それでも原作からこぼれている細かなエピソードはあり、この原作の奥深さを逆に感じることとなった。あくまですずという女性の、戦時下の他愛ない男と女の話でありながら、りんとすずというこの時代の女性の選択肢の無かった生き方を対照的に描き、最後は輪廻転生のような宇宙観を感じさせもする。

すずが西瓜を与えた屋根裏の子供はりんさんかもしれなくて、そのりんさんは周作の隣にいることはできなくて。
はるみちゃんは死んでしまったけど、名も知らぬ子供が新しい家族になって。
誰かが、誰かの場所だったところにおさまって。
そう簡単に居場所が無くなったりしないよ、というりんさんの声が胸を締め付ける。誰もがそうではないことも含めて。

りんさんも、ピカドンで息子を亡くし隣人の女性も、両親と腕を無くしたすずも、あまりにも失ったものへの執着が無くて、それなのに何かを諦めている様子でもなくて。
戦争は人に悲しんだり後悔したりする暇も与えず、どんどん生活の糧を奪っていく。そんな状況を受け入れるしかないけれど、でも日々の営みを丹念に過ごしていくすずたちが、健気で胸を打つ。
すずは人生の何一つも自分で決めていないように見えるけど、何でも受け入れてしまうしなやかさに惹かれた人たちから、選ばれているのかもしれない。
戦時下のごくごく普通の家庭の生活をこんなに丹念に丁寧に描いた作品は珍しい。戦場での兵士のドキュメンタリーはあまたあれど、その裏で極貧を強いられた一般家庭での生活はあまり目立たない。
「配給」「バケツリレー」そういったステレオタイプの映像以上のやりくりは、こちらが想像する以上のものがあった。日本全体がこんなにかつかつの生活をしていて、よくご先祖達は耐えてきたなと。
すずの腕に母を見出した子どもは救われたが、実際は戦争孤児としてひどい目にあった方たちもたくさんおり、そのドキュメンタリーを見たら、これが同じ人間の所業かと唖然としたことがある。 だからこそ、フィクションであろうと、最後に描かれたすずたちの選択に、胸が震えた。

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