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MERU/メルー [ドキュメンタリー]

満足度★90点


MERU/メルー スタンダード・エディション [Blu-ray]

MERU/メルー スタンダード・エディション [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2017/06/07
  • メディア: Blu-ray
情熱が肉体に起こした奇跡が胸を穿つ

まず、普段から登山だけを妙に敵視する人が多いことに、以前から疑問を隠せない。
レビューには「命を粗末に扱うエゴイスト」や「怪我や遭難で救助される税金の無駄使い」「辛いのに登る理由がわからない」などなどの、存在の拒否を超えて憎しみさえ感じる言葉が並ぶ。
山岳遭難事故は報道されてしまうからだろうか。水難事故や他のスポーツ中の事故には同情の声も多いのだが、なぜか山に関しては敵意むき出しのコメントが多い。そういう方は幼いころ、課外学習で嫌な目にでもあったのだろうか。


ではプロレスやボクシングなどの格闘技、体を張ったアメフトやラグビー、サッカーなど他の競技はなぜ同じように批判されないのか。

批判する人々の道理に照らすと、無理に食べて太って寿命を縮める相撲や、42キロも走り体脂肪を極限に落とすマラソンや、器具から落下すれば大怪我する体操や、ボールが直撃したら危険な野球や、水難事故をはらむヨットやトライアスロン、ハンドルさばきを間違えたらクラッシュするF1なんてすべて無益で無駄でアホのやることで、命を粗末にしている行為なんでしょう。


しかし、危険や怪我のないスポーツなんてどこにもない。

彼らは死にたくてスポーツをしているのか?

答えは自明の理。そんなわけはない。

ただ好きだから挑戦したい、それだけだ。


また、スポーツ中であろうとなかろうと誰かが事故にあったり倒れたら助け合うのが社会。
日常から誰かに助けられていない人間なんて、どこにもいないと私は思う。

私も登山をやる。子供の頃もバレーボール、テニス、ソフトボールなど部活動にいそしんでいた。

なぜそれらをするのか?と聞かれたら、ただ単に「好きだから」の一言に尽きる。

それはなぜ米を食べるのが好きなのかという質問と同列で、他に答えようがない。
野球の相撲もラグビーも観戦するが、他のスポーツも同様だ。

しいて登山の特性をいえば、沿道にもゴールにも喝采を送る観客がいないスポーツ。
そういった意味ではひどく純粋な、己の満足のためだけの行いといえる。

相手は自然ですが、戦うわけじゃない。

文明の利器を使いながらも、岩や雪と格闘するうちに、人間の動物としての原始の姿に戻っていくような、何かをはぎ取られていくような気持ちになっていく。
不便さと恐怖を克服した先に、登頂した達成感がある。

この映画の登山家のレベルになれば、まだ人類に浸食されていないメルーという原始の姿を留めた山になればなるほど、その欲求をかき立てられるものだろう。


ほとんどのスポーツは準備や練習で苦しい時間がほとんどだ。
しかし好きな気持ちが上回っているから、肉体の極限までやり続ける。自分の限界を試したくなる。

レオンが瀕死の重傷を負っても驚異の回復力をみせたのは、山が好きだという情熱があったからであって、ジミーが悩んだ末に彼を連れていったのは、彼から生き甲斐を奪ってしまうことに他ならないから。
また、山に行ける機会は高山になればなるほど少ない。資金集めや加齢などのタイミングもある。
危ない・危ないといってレオンの回復を待っていたら更にチャンスは減るだろう。
それに他のクルーをチームに入れてメルーに挑戦することのほうが、レオンに対してあまりに酷な仕打ちといえないだろうか。


レオンが起こした肉体の奇跡を見て、ああ、誰かの物差しで、人の幸せを測ってはいけないんだなぁとつくづく思った。


人間は一見、無益だと思われることに挑み続けて発展してきた生き物。
スポーツに限らず、宇宙や火山や深海の探索や、トンネル掘削や高層ビル建築などなど、危険をはらむすべての人間の営みにおいていえることだろう。
アームストロング船長の語ったように、人は困難に挑みたくなる性質を備えているものなのだ。

だからこそ三人がメルーの天辺に立てたことが素直に嬉しく、感動した。
限られた人しかたどりつけない場所の映像を見ることができて、楽しかった。

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