異端の鳥 [戦争ドラマ・戦争アクション]
http://www.transformer.co.jp/m/itannotori/
満足度★70点
パンフレットを読むと、原作は作者の実体験に忠実なものではないらしい。
それを知って少し安堵した。一人の人間がこれほどまでに完璧な悪意の数々に出くわすだろうかと訝しんでいたからだ。
この映画は少年に向けられた悪意というより(もちろんその場合もあるが)、少年の目を通して人間の獣性を露わにしていくもので、モノクロの画(え)はどこか暗くて恐ろしいおとぎ話のような凄惨な美しさを秘めている。
使用人との浮気を疑い妻に暴力をふるう夫、息子が穢されたと激高し売春婦の膣にボトルを差し込み殺す主婦たち、敬虔なクリスチャンのふりをして少年を手籠めにする農夫。
閉鎖的な空間で自分が優位に立ちたいという生理的な欲求と虐げられる弱者。
一番心に堪えたのは、逃がすふりをして小鳥をペイントし、仲間の群から攻撃させるようにし向けて殺されるさまを楽しんでいた鳥飼のエピソード。
自分よりも弱い動物を守り涙する心を持っていた優しき少年は、次第に感情を失っていき、しまいにはある女性への失恋から彼女の家畜のっ首を切り落とし投げ入れるまでの攻撃性を見せる(ゴッドファーザー2を思いだした人は私だけではあるまい)。
少年の旅する世界は架空の世界で、言語はスラブ語をベースにしたこれまた架空のものだという。
ラマの女性や、コサック、ロシア兵などの実在の名詞は出てくるが、地域を限定しないことでより抽象的に描けるからだろうと思う。
戦時下の人間は自分本位になりがちだが、兵士以外の人間はこの映画のようにむき出しの攻撃性を持つものではなく、積極的な消極性が際立つものだと個人的には思う。要するに「苦しむ人を助け〈なかった〉」「捕虜に水をあげ〈なかった〉」「病気の人を防空壕にいれ〈なかった〉」「みなしごを見殺しにした」などなど…。
何が言いたいのかというと、登場人物の行動は残虐と非道という点でステレオタイプで多少芝居がかってはいるということ。
ただ、このレパートリーに自分の中に眠る、発露していない悪意がいつ首をもたげる時がくるのかという潜在的な恐怖を感じた。
コメント 0