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アイガー北壁 [ヒューマンドラマ]

満足度★85点

アイガー北壁 [Blu-ray]

アイガー北壁 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2020/12/23
  • メディア: Blu-ray
■ナチ政権下で起きていた、知られざる悲劇

エベレスト初登頂のように、アイガー北壁でも欧州各国の初登頂争いが熱気を帯びていた。
さらに当時のナチ政権はベルリンオリンピックを目前としており、アイガー北壁を登頂した暁には金メダルを与えると喧伝。ドイツの手柄にするものかと、各国の登山隊がアイガーに集う。

二人の主人公、トニーは「生きて帰る」をモットーとした慎重派。対するアンディは自信に満ちた情熱家。アンディの熱意に引きずられるように登攀を決めたトニーだが、本心は名声につられて実力以上の山に挑戦する野心家だと思われたくなかったに違いないし、本気でアイガー北壁は難しいと判断していたに違いない。

スポーツマンシップに則り他の隊を助け、トラブルのなか血気にはやるアンディを制し撤退を決め、冷静さを保ち困難を克服しようとしていた彼が、アンディの死を目の当たりにし、さらに救助隊にすんでのところで見捨てられて、とうとう取り乱す様は観ていて辛かった。

凍傷で動かなくなる指先、ザイルで負った擦過傷、堅い岩盤にささらないピッケル、現代より格段に劣る防寒具、夏なのに襲うブリザード、すべてが生々しく、高山の登攀の難しさをまざまざと描く。
そもそも、アンディが全員が助からないと判断し自らザイルを切った時点で、トニーには彼の死を越えて生き延びる気力はほぼ無くなっていたに違いない。

壁は登らないが、私もテント泊登山をする。誰かがいるからしんどさも越えられる場面が多々あるし、不思議な力が湧いて来るもの。それは沿道やゴールに歓声のないスポーツである登山では特に重要なこと。トニーも相棒の命を背負っていたからこそ、生還ギリギリまで耐えられたのだと思う。
最後まで二人の足を引っ張るオーストリア隊も、ボロボロになりながらも絶対引き返さなかった背景には、彼らがナチ党だったからなのか、それは処世術で本意はナチを嫌っていたからなのかは劇中から察することはできないが、しかし彼らもまた時代のムードに翻弄された被害者といっても過言ではないだろう。

しかしヨーロッパの当時の技術力と生活水準の高さに驚く。
標高2500メートルに四つ星ホテル?
標高3000メートルの駅に、観光用登山列車が到着?
欧州の山岳観光という物が、いかにセレブな階級の娯楽だったのかがよくわかる。
とはいえ、アイガーの列車は元は炭坑用。麓の様子はそのまま格差の対比となる。
労働者たちが命を削って掘った岩盤と観光目的に金持ちが集う四つ星ホテル、テントで寝泊まりする登山家たちとホテル客。

トニーの元恋人で新聞記者見習いのルイーゼも、最初はキザでお洒落な上司ときらめく上流社会に心ときめいていた。多少ご都合主義だったことは否めないが、ルイーゼはトニーの登攀を見守るうちに彼への想いを甦らせる。なんとか彼を助けようとするも、もう少しの距離で如何ともしがたいザイルの距離、涙なしには見られませんでした。
ラストはルイーゼが虚飾にまみれた社会と絶縁し、トニーへの愛を思い出のよすがとして自由の国アメリカで強く生きる姿が映し出される。

ヒトラー政権下において、国威発揚のセレモニーとして聖火リレーを発案したベルリン五輪が「陽」ならば、アイガーに散った者たちはいわば失敗した「陰」のような存在なのだろう。
知られざる歴史の一部を知り、気がふさぎ込むような悲しい気持ちになったが、この実話を知ることができてよかったと思う。

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