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TENET テネット ※ネタばれあり考察 [SF]

満足度★80点

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■深い因果性に思考の迷路にはまる中毒性のある作品

待ちに待ったノーランの新作、2回鑑賞。
初回はめくるめく時間の流れに自分が迷子にならないよう、ついて行くのに必死。
だけど予想の範囲だった箇所も多々あるし(マスクの逆行兵士やニールやテネットのボスの正体など)、核となるストーリーの大筋は理解できた。
言い換えれば、話の根幹は既視感のあるSF作品の範疇を超えてはいなかったともいえる。
王道のストーリーだが、時間が戻る様子を可視化したという点で新境地。
手垢にまみれたSFタイムパラドックスものが溢れる中、まったく新しい描き方ができるのかと脱帽。しかし考えてみれば、今までのタイムトラベル・スリップ・リープの時間の飛び方の方がご都合主義だったのではないだろうかとさえ思えてくる。

新作ごとに作品を超えてくるノーラン。難解すぎると批判する前にこんな世界を幾人が可視化できるのかを考えると、商業的にも成功しなければならないし、ものすごい挑戦だったと思う。

また、物理の法則ばかりに囚われると映画の主題が見えなくなってしまう。不思議なもので、思い返せば思い返すほど人物の関係性に因果の業を感じるし、〈名無し〉が〈主役〉に転じたラストのメッセージ性も深みを増す。

ちょっとひっかかるのは、心情を吐露するセリフが説明的なことと、名無しがキャットに一目惚れしたような色気を演出していない割には彼女に固執しているところ。そのバランスは難しいところだったのだろう。

●複雑な逆行世界
話休題。 さて本題の逆行だが、これは今までのタイムリープ系と違って、大いに複雑。なぜなら前出の場合は、現在から過去に瞬間移動するようなもので、戻った時点から時間は順行する。
タイムリープはファミコン時代のスーパーマリオブラザーズ(初期)で例えると、「何度か同じ面を繰り返し失敗したらリセットして、また一からステージをクリアすればいい」ので、リセットをして再びスイッチを入れるまでの時間は、マリオにとって消失してるのと同じだ。
しかし今回は「〈スタートから進むマリオの結果を知る〉マリオ」が、ゴール近くの土管から左スクロールで進んでくるのである。しかもそのマリオは「戻ってくる」わけではない。スタートから進む右・スクロールマリオの動きをトレースしてるわけではなく、自由意志で「進んで」くる。左スクロール・マリオは、何が起きるかわかっているから、右スクロール・マリオのために背後からクッパをフルボッコできるし、現れた瞬時クリボーを踏みつけることもできる。

「ジョジョの奇妙な冒険」の吉良並のチートさかよと思うが、以外と厄介である。
スタンドと違い自分の意志で左スクロールに動く流れは止められないし、タイミングを間違うと振り向いたクッパに反撃される危険性もある。しかもエントロピーの法則でエネルギーは反対側に向かうから、クッパの炎は氷に変わる。吸おうとしても酸素は逃げていくから酸素マスクが必要だ。
そしてマリオ同士がぶつかると2体ともジ・エンドになるんだよ、と物理の法則とやらが決めてるし、永遠に逆方向へ進んでも仕方ないので、左スクロール・マリオはどこかの土管に入り右スクロール世界へ戻るか、ひっそりと崖から飛び降りるしかない。

要するに横スクロールが〈時間〉なら、ステージは〈空間〉。同じ空間に違う流れで進むマリオが2体いるのである。この例え、なんかややこしくなってきた。

ちなみに鑑賞を進めると忘れてしまいそうになるが、逆行するのは人だけではなく物質も。
バーバラが序章で説明したように、使い手が「撃つ」「持つ」という意思を持ってから対象に及ぼす一連運動が終わるまで。
なので、観客はその画(え)が「順行世界で〈逆行している物質〉を見ている」のか、それとも「逆行世界で〈順行世界を見ている〉人間の視点」なのか、よくよく気を引き締めなければならない。
監督も最初から理解してもらうことを放棄してなのか、バーバラに「理解しないで、感じて」と言わしめてるのが少し情けない。正解はノーランの頭の中だけだが、疑問に対しての考察を進める。

●アルゴリズムとは。未来はいつなのか

テネットの戦う相手は姿が見えない未来人。未来のある科学者は、環境破壊による滅亡から人類を救うため地球丸ごと時間が逆行する装置を作ったが、全てが逆行すると先祖たちが滅亡してしまう=未来の自分たちも死ぬ(祖父殺しのパラドックス)理論に絶望して、そのアルゴリズムを9つに分解して過去に隠し、自殺する。
しかし今そこにある危機に瀕している未来人たちは、結果はどうであれ、アルゴリズムを起動させたいと考える。
そこでセイターを利用しアルゴリズムを集めさせてるわけだが、未来から逆行武器や報酬の金を届けてることを考えると、逆行中の時も等しく流れている故に経年劣化してしまうので、それほど遠くない未来だと思われる。

テネット側も未来からエントロピーが反対の物質を利用しており、先祖に味方する未来人もいることが明かされる。プリヤやニールは、〈記録〉があるからだというが、ではその記録の起点はどこか。
起こったことを知っている名無しが記録し、テネットを形成したのは間違いない。
テネット部隊を結成したのは名無しだが、遠くない未来で結成され逆行してきたと思われる。
しかし、あんなに大勢が逆行してくるのは無理があるので、その〈記録〉はニールが持って逆行し、冒頭での名無しに行った〈テスト〉を行って、ある程度の規模は現代で構成した可能性もある。

また、未来人がセイターを操ったように、現代へ色々届けていたのは名無しと逆行→順行に転じたキャットなのかもしれない。
話は変わるが、アルゴリズムというと『虐殺器官』をつい思い出してしまう。アルゴリズムが物質そのものとも、式そのものとも判別できないところがまた、興味を掻き立てる。

●未来人が逆行してアルゴリズムを探さないわけ
科学者が逆行しながらアルゴリズムを隠したのか、逆行から順行に転じてからアルゴリズムを隠したのかが判然としない。しかし前者だとすれば〈そもそも起動したら逆行のエネルギーを世界に与えるアルゴリズム〉に、〈更に逆行のエネルギー〉が付加されたことになり順行になってしまうため、後者だと思われる。
しかし等しく時は流れるため、未来人が科学者を後追いしても科学者の死は止められない。よしんば隠し場所が判明しても自分たちが滅ぼしたい過去にいる時点で巻き添えを食う。未来人の犠牲は出さずに、祖先のことは祖先にやらせているということだろう。しかし、セイターの忠実な僕は実は忠誠心のある未来人で、お目付け役兼補佐なのかもしれない。名無しを助けるニールが命がけで逆行したように。

●果たして彼らはタイムループから抜け出せたのか?「俺が主役だ」のセリフの意味とは

ラスト、ニールは「過去を作りにいく」と言う。名無しを助けるために死ににいくわけであるが(胸熱)、順行世界ではまだ幼いニール=マキシム坊ちゃんが成長して、〈テネットのボス〉になった名無しに命じられ、逆行するという行程を踏まないといけない。
ということは、結果が先にあってそれを元に動くという〈卵か先か、鶏が先か〉問題が解決していないように思える。
ニールはまた、「起きたことは取り消せない」とも言った。この時間軸ではテネットが成功し順行世界は無事だから、成功するように動かなければならない。そうなると、やはり結果ありきのループに思える。
しかし起きたことが取り消せないのであれば、セイターの死は確実だし、アルゴリズムも分解できたので、後で名無しが操るはずの武器商人プリヤを殺すことによってループを壊し、そこから先は新しい未来=パラレルワールドに突入したともいえる。
となれば、〈主役〉には「フィクサーは俺だった」という意味と、「これから予測不可能な未来を自分の意志で生きる決意」の意味の二通りを感じることができる。まさに時に翻弄されるだけの「名無し」から〈人生の主役〉に転じた瞬間だ。ニールが言ったように、未来は誰にもわからないのだから。

●ニールの正体、逆行キャットのその後は


動機を考えると、ニールはキャットの息子マキシムで間違いないだろう。名無しが回転扉をくぐったあとに外へでようとすると無茶だと止められるシーンがあるので、いかに逆行世界が危険なのかをわかっているニールは、回転扉を通った後はひたすらモグラのように籠もっていたに違いない。逆行中も遡った分だけ歳はとるので、30代に見える彼は、その青年期を逆行のために捧げたと言える。
こんな過酷なことを名無し男が命じるとは思えず、セイターから逃れたキャット母さんが名無しへ感謝する姿を見て育ったマキシム坊ちゃんが、自分から志願したのではないだろうか。
ここで疑問、作戦が成功した後の順行キャットはどうなったのだろうか。作戦が成功した以上、元々の順行キャットはセイターに脅かされないわけだが、ラストシーンで登場するキャットは全てを知っている逆行キャットであった。時間をスキップすることはできないので、逆行キャットはそのまま流れるときに身を任せねばならないはずだ。とするともう一人の無垢な順行キャットはどこへ?

ループするのであれば、順行キャットが順行セイターに撃たれて…という時間がくるまで自分に会わないよう慎重に行動して、その後の人生を謳歌すればいいが、ループが壊れたと仮定すると同じ人間2人が存在し続けることになる。これは名無しにも言えることで、一つの疑問である。

こうして考えてみると自説に反証する自分もいて、思考の∞ループにはまってしまう。まさに中毒性のある作品だ。ループしない希望のある話だと思いたい自分もいるし、ループしてアルゴリズムを阻止し続ける悲劇を想像してしまう自分もいる。難解という負のエネルギーを転換すると、登場人物の視点を変え何度でも鑑賞しても楽しめる超娯楽作品と言い替えることができる。
青のロゴマークを見たら最後、観客は劇場に逆行したくなるに違いない。

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