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宮崎駿監督作「君たちはどう生きるか」をこう解釈 [アニメ]

満足度★70点 

2023-07-22T20:58:58.jpg


■暗喩に満ちているが意外とメッセージはシンプル

映画「メッセージ」とテレンス・マリックの「ツリー・オブ・ライフ」とキューブリックの「2001年宇宙の旅」を足したようなメッセージ性と、背景はルネ・マグリットの絵画や飛鳥の石舞台のような様々なメタファーに彩られた、美しい映画でした。

ただ、監督が伝えたかったメッセージが上手く描き切れたのかというと、消化不良だったのでは…?という気もします。
でも私はこの映画のことは嫌いではありません。

●各キャラクターの心情
マヒトは、小さな嘘をつく矮小な自分を認めることができて、やっと欺瞞と暴力が渦巻く世界と対峙する決意をしたんですよね。母親の死を乗り越えていない自分の心、そして継母の母胎と脈打つ命。そこに一種のエロスとうしろめたさとないまぜになった感情がうまれ、ナツコにも素直に対峙できなかったのではないでしょうか。
ナツコはおそらく姉(マヒトの母)に対して引け目があって、姉の授かり子のマヒトと向き合う責任から逃れたかったのではないかな。
ヒミは、自分が若くして死ぬことがわかっていても、マヒトをこの世に産むことを選んだ。マヒトと出逢った異世界での期間が、きっと神隠しにあった1年だったんでしょうね。この辺が、個人的に子供が死ぬことがわかっていても子供を産む決断をした「メッセージ」の主人公を彷彿とさせました。ヒミが「火は怖くない」というセリフを言いますが、火は生命を燃し、また新しく命を生む役割もあることからでしょうか。

私たちがこの世に命があるのは、絶対ではない。キリコのいた海は子宮で、白い生き物は精子。らせんを描くのはDNAそのものですね。
もしかしたら私たちは、あの世にいるときに、誰かに選ばれて生まれたのかしれないし、自分で選んでこの世に産まれたのかもしれない。
陳腐な表現ですが、生命というのは神秘で、人間だけではなく数多の命は全ておろそかにしてはいけないよという、メッセージを感じました。

そこに気がつくまでのマヒトは、劇的な変化はみせません。そこにもどかしさや物足りなさを感じる人もいるでしょう。セリフは極力そぎ落とされ、ほとんどのシーンは抽象的です。

●大叔父
大叔父が持つ隕石は、地球に生命をもたらした象徴と受け取りました。大叔父がもっていた13の積み木の数字「13」は、キリスト教でいうところのユダで、すなわち「神に背を向けた男」ということを連想させます。大叔父は、現実世界では行方不明になったままなので、隕石を通じてこの生命の渦のような世界で、神ではないのに神のような力を持ってしまった者なのかもしれません。戦争を経験した大叔父は、苦しみや悲しみを生む人間界そのものの行く末を、子孫に託したかったのかな?と思われます。

インコは…なぜインコなのかがわかりませんが、日本においては恐ろしい外来種なので、生命のバランスを欠くの象徴でしょうか(笑)?

パンフレットもないし、私の推考が正しいのかどうかはわかりません。この映画の背景にある全ては、監督の頭の中だけにあるのでしょう。

ただ、そもそものメッセージはシンプルなものの、そこに至るまでのストーリーが面白いかというと、それほどでもありません。ただ、最後まで観ることで、じわじわとこみ上げるものがありました。 特に場面場面で思わせぶりな表情を見せるキャラクターの繊細さ、和洋折衷なのに美しい色彩の世界は、もう一度みたいと思わせる中毒性があります。

ちなみに全く子供向きではないと思いますし、本の「君たちは~」の筋書きとは全く違ういます。ただ不思議なものを不思議だと素直に受け止める人の心には、残りやすいかもしれません。

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