リチャード・ジュエル [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
Us―アス [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
アス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
- 発売日: 2020/09/25
- メディア: Blu-ray
アメリカの陰謀論に地下は付き物。
宇宙人の秘密基地がある、ホワイトハウスにつながっている、金持ちたちが子供を拉致してペドファイルにいそしんでる、などなどの都市伝説には枚挙に暇がない。しかし、アメリカならなんでもありえそうだ…と思わせる、この廃棄された地下坑道に着目したのはなかなか説得力ありだと思う。
ハンズ・アクロス・アメリカという善意活動の下で、えげつない人体実験が行われていた。
「私たちはアメリカ人」と答えるアデレードの台詞には露骨とも言える格差社会への風刺が見て取れるけど、古典的SF「タイムマシン」の地上人エロイと地下人モーロックも想起させる。
テザードと呼ばれるクローンに魂をつなぐ技術はいったいどうやって行おうとしたのか?
クローンはどのタイミングで作ったのか?
産後すぐなら病院の産科と結託して作ったのか?という細かな突っ込みは控えたい。
結局、権力者は上の人間を操るつもりがテザードがオリジナルに操られてしまったが故に失敗したということなのだろう。
その誕生理由から上流社会のテザードはおらず、途中放棄のため全国民分のテザードはいないのだろうから、彼らが手をつなぎ蜂起したとはいえいずれ軍などに粛清されていくと思われる。
そこまで考えたとき、もしこれが何度でも権力に立ち向かえというメッセージまで含まれてると考えるとしたら、ちょっと監督は欲張りすぎだな。
入れ替わりが起きていたことで、テザードの中でアデレードだけがなぜ話すことができたのか、レッドがなぜ失踪後言葉を失っていたのか(言葉を学んでおらず話せなかったから)、息子ジェイソンはなぜプルートを操れることができたのか、などなどの伏線は回収される。
アデレード → レッド
ゲイブ → アブラハム
ゾーラ → アンブラ
ジェイソン → プルート
また、序盤から登場する謎の男が持っていた看板や、時計の表示「11:11」など度々現れるエレミヤ書第11節第1章。 これは聖書の引用で、 「それゆえ主はこう言われる、わたしは災を彼らの上にくだす。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない」という意味。
まさにテザードたちがオリジナルに対して報復を行うことを示唆している。
父親ゲイブがどこかとぼけた味を醸し出していて、恐怖を和らげてくれた。アデレードもプルートも、隣人の双子も怖すぎますって。
昔狼に育てられた少女の実話があったが、人間を無教育に放置するとああも野蛮になってしまうのだろうか。
まさにテザードは教育を受けられない人たちの象徴でもあるのだろう。
一方通行のエスカレーターをアデレードが上がってきたのなら、テザードたちだっていつでも逃げていけたのに、それさえも思いつくことができなかった。それは貧乏人がいつまでも搾取され、日の当たる場所に出ていけない世の中を示しているようだ。
ザ・クリーナー消された殺人 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★55点
■ハードボイルドな雰囲気づくりはかう
サミュエル・L・ジャクソンで、ファンキーな音楽。
冒頭、パルプ・フィクションの前日譚じゃないよね?とか思いつつ…。
役作り?少しお顔の輪郭の違うサミュエルに戸惑いも。
警察対個人の図式になるかと思いきや、とっても内輪の話だった。真犯人はエド・ハリスかエヴァ・メンデスか警察しかないのだから、おのずと絞られてきてしまうわけで。
犯人の動機が思い込み激しいというか、こじづけ&こじらせすぎる気もして少し肩透かし。
掃除のテクニックと几帳面さの描写がやけにスタイリッシュ。レニー・ハーリン監督お手の物。
母親を目の前で殺され、名付け親まで手にかけた娘の心理状態が心配だったが、最後に「相棒はお前じゃない、この私」と言わんばかりのナレーションまでついてきて安心。きっとこの家業を継ぐに違いない…。
ラスト、掃除作業に抵抗感を示していた従業員がボスの部屋を片付ける描写が好き。
DAU・ナターシャ [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
http://www.transformer.co.jp/m/dau/
面白いかというと面白くはない。しかしつまらないかと問われれば、つまらなくはない。
「ダウ プロジェクト」とは、一つの町と研究施設を作り上げ、そこで旧ソ連時代の全体主義を再現するという大がかりのもの。
映像作品は今後14作品創作される予定(既に1作は作成済み)、このナターシャはそのうちの一部でしかないとのこと。
なので、この一作で判断しかねるものがある。
それにしてももう少しソ連らしさや、その大がかりなプロジェクトの一端が垣間見られるのかと思ったらスケール感は小さい。あくまでナターシャという女性の個人的な視点を没入感たっぷりに演出する。シナリオはあるがセリフは即興だったという。そのためか背景の説明があまりなく、前衛的な即興劇のような感覚もうける。冒頭はいきなり愛についての禅問答が始まるし、キャットファイトは長い。
若いウェイトレスの同僚オーリャとの供依存のような愛憎関係、淡々と同じ事を繰り返す日々に不意に訪れる悲しみ、一夜を共にした外国人科学者に期待した恋愛関係の拒絶、人間または女性としての矜持を試されるKGBの拷問。これが旧ソ連の女性のステレオタイプなのかもわからないが、少なくともナターシャが幸せではないことは伝わる。
その振る舞い方一つで優位性や関係性が変化する密室劇のようでもあった。
オーリャの家になぜ科学者たちが寝泊まりしているのかなど不明瞭の点も多々あったが、15作すべてを俯瞰すると線でつながるのだろうか。そして日本ですべて公開されるとも限らないが、今後に期待。
ウルフ・オブ・ウォールストリート [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
■金儲けというドラッグ
ジョーダン・ベルフォートは最初に入社したL.F.ロスチャイルドで、ぶっとんだ上司から痛烈な洗礼を受ける。 「存在しないただの数字を右から左に動かす」
そこにあたかも付加価値があるかのように思わせ、顧客が得た金は現金化する前に投資させる。
右から左へ動かす金もない小市民にとっては、ロスチャイルドだろうがベルフォートだろうが同じようなペテン師に思える。
しかし彼らを軽蔑しつつ、どこかでべルフォートの圧倒的なパワーとモチベーションに惹かれるのも事実。
稼いだ金は女とドラッグとパーティーにつぎ込むという、やってることは学生のソレなのだが、こんなパワフルなトップが率いる会社にいたら、さぞ楽しいだろうなとさえ思えてしまう。
彼の操縦する船に乗り、どこまで行くかを見てみたい。
それが泡沫の夢でも、人生一度はこんな経験してみたい。
延々と見せられる饗宴には、そんな魔力が秘められている。
179分は長いが、この長さがないと、彼らと同じような陶酔感を疑似体験することは得られなかったのかもしれない。圧倒的なテンションで突き進むジョナ・ヒルらの演技は、悪ノリと狂気のはざまにある。その閾値はなんだろう。
巧みな話術で人をその気にさせ、金を転がしていく行為は麻薬に似ている。
一度その快感にはまったら抜け出せない。
ラスト、講演会に現れた無数の子羊たち。ベルフォートの前に並べられた生贄のようだった。
アフターライフ(※ネタバレあり) [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
ただすぐに殺すわけではなく、葬儀屋の立場を利用して、本人の葬儀準備期間中は生かしておく。その間、生殺与奪の権利が自分にあるかのごとく彼らと対話し、彼らに人生に対峙する勇気があるのかをテストする。これは死者の世界だと嘘をつき、心理的に追いつめて楽しんでいるのだ。
とにかく、主人公が助かりそうで助からない、生きたいのか死にたいのか決断力のなさが際だつ、後味の悪い映画でした。
予断ですが、クリスティーナ・リッチが後半ほぼ裸です。
大人になっても小悪魔的な薄幸さをかもし出しているので、この映画にはぴったりでした。
ブレグジット EU離脱 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
結果は、僅差ではあったものの、離脱派が勝利。この有名なキャッチコピーを生み出したのが、主役のドミニク・カミングスという男。
映画はこのカミングスを、ボリスを裏で導いたブレーンとして描く。
この一文を人に見せるためだけに、本編は費やされたと言っていいと思う。
デトロイト [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
存在のない子供たち [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★90点
【Amazon.co.jp限定】存在のない子供たち (非売品プレス付き) [DVD]
- 出版社/メーカー: Happinet
- メディア: DVD
■無責任に子供を産む罪を問う
ゼインは「誰も知らない」の柳楽優弥に似ている。しっかり者で面倒見が良くて、兄弟を愛している。
でもそれはゼインが両親から与えられるべきもの。それを渇望している暇も無く、かいがいしく妹らの面倒をみる彼の姿に胸が締め付けられた。
家にいたら罵られ、休む暇も無く働かされる。しかしいざ両親の元を逃げ出し、行きずりで知り合った心優しき移民の女性ラヒルの元に身を寄せたところで、無為の時間が彼を襲う。
知的好奇心を満たすものも無く、外界からの刺激を遮断され、ひたすらラヒルの赤ん坊のヨナスをあやす時間。
人はどうしたって何かを考えてしまう動物だから、何もできない時間というのはそれだけで辛い。本来なら好奇心いっぱいに目にする物すべてを吸収したい年頃のゼインにとっては、特に残酷だ。
そんなゼインが帰ってこれなくなったラヒルの代わりに、必死にヨナスを養おうとする姿は涙なくして見られない。
しかしこの映画は、ゼインの悲しみに寄り添うものではなく、子供を労働力としかみなさず宗教上などの問題で避妊せず、愛しもしないのに子供を産む大人たちを糾弾するものだ。
お金や扶養の問題ではない。愛されたい、ただそれだけが得られない子供のなんて多いことか。
本来なら、多くの人が「生まれてこなければよかった」から「生まれてきてよかった」と言える社会にしなけれはいけないのに。
出生届を出されていないため法的に存在しないゼイン。不法移民ゆえに法的に存在しないラヒル。違法だからといって、彼らは悪人だろうか。法律至上主義の人たちにとっては、法を守れない彼らはいなくてもいい(死んでもいい)存在なのだろうか。
法律が弱者を守れないのであれば、それを変えていくのも今を生きる者達の責任なのではないかと強く思う。
ゼインは本物の難民。彼が幼いながらも「酷い国」「亡命したい」などと口にする場面には重みがあった。彼の目に希望や笑顔が宿る日を、願わずにいられない。
パラサイト~半地下の家族 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]
満足度★85点
●横たわる格差という溝
ある金持ち家族に身元を偽って雇用された一家族が、四苦八苦しながら取り繕うさまを滑稽に描く序盤。貧乏家族が金持ちを騙し留飲を下げるドラマかと思いきや、さにあらず。
格差社会や学歴社会、生まれた環境による越えられない壁など、非常に風刺のきいた社会の闇を描きつつ、次第にサスペンスやホラーの様相を帯び、どこに連れていかれるのかわからない怒涛の展開。最後は、痛さだけが残った。
テーブルの下で聞かされる金持ちの愛撫。「くさい」というNGワードで、元スポーツマンの矜持がガラガラと崩れていく中年の負け組の痛々しさを、父親役のソン・ガンホが好演。地頭はいいのに金がなく進学できない兄妹。口は悪いが、決して悪人ではない肝の座った妻。
決して根っからの悪人ではない彼らをパラサイトと呼ぶ比喩は、世界中の大多数の層を指す言葉でもあって、ひどく攻撃的な響き。
だが、社会が資本主義だろうが共産主義だろうが、大多数の人間は富が集中した場所に群がらざるを得ない。一つのパイをみんなでカツカツと切り分けて生きている。環境が違えば、私たちだって違ったはず。妻のセリフに、誰もがそう思う。
人間の矜持は一体どこに持てばいいのだろう。どれだけ貧乏でも、人から情けない人間だと思われない生き方とは一体なんだろう。「足るを知る」という言葉で自分を慰めても、富む側の存在そのものが傷つける。時代劇に登場するような「清貧」という言葉が似合う、求道者のような生活をすればいいのだろうか。しかし、その生活ができるほど、現代は自由でもなければ自給自足もすることもままならない。
完全な平等社会に近づくには、生まれた時に衣食住の完璧に揃った同じ施設で育てられ、教育の機会を等しく受けるか、成人後に必ず受け取れる保証金制度を設けるなど、「機会の平等」を享受できる構造にしなければならないだろう。
しかし、そんな社会はSFのなかでしか存在しない、夢物語。だから、キムの「成功して家を買い、父親を地下から解放する」という独白は非常に残酷なラストだ。人を騙したり欺くより「まとも」だけど、その未来はほぼ来ないだろうと思ってしまうから。
彼の前に横たわる越えられない格差は、私の前にも横たわっている。あの地下室の闇がこちらを見ているようで、怖い。