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リチャード・ジュエル [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★77点

リチャード・ジュエル [Blu-ray]

リチャード・ジュエル [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
  • 発売日: 2020/11/27
  • メディア: Blu-ray

■国が有罪といったら無罪の証拠


あまりの捜査の杜撰さに驚きを隠せなかった。
確実な証拠もなしにプロファイリングだけで犯人だと決めつけ、ずぶの素人でもわかりそうなアリバイの裏付け確認を怠るFBI。
真の真犯人を突き止めることよりも、FBIが現場にいながら対処できなかったことの後ろめたさを、「早期犯人逮捕」という既成事実をでっちあげて批判をかわそうとしているようにしか思えず、憤りを感じた。
脅迫電話と事件現場の距離に整合性がとれないと「共犯がいた」とまでこじつける始末。しかもジュエルの友人をゲイ関係だとみなし、アリバイも確認せず共犯に仕立てようとする。
リチャードを騙して脅迫電話の証拠を捏造しようと画策したり、本当に目を疑うほどの酷さに権力の恐ろしさを感じた。【私は確信する】でも感じたが、証拠はどうした、証拠は。
結局リチャードを立件し裁判にまで持ち込めなかったからなのか、現場にいた他の被害者たちの証言が全くなかったのが少し気になる。テーマがぶれるからという理由で監督が割愛していたのならそれもまた潔しとは思うが、その辺の詳細も知りたかった。
一部批評家や観客からステレオタイプだと批判を浴びた新聞記者の描写もそうだが、監督が恣意的に少し事実を曲げている節は少なからずありそうだ。
しかし「メディア」による印象操作はいつの世も危険を孕んでいて、一度ついたイメージは受け手側が情報をアップデートしない限り永遠にそのままになってしまう可能性がある。監督はこの時代だからこそ、情報は鵜呑みにしてはいけないいう強いメッセージを送りたかったのではないか。
性善説に基づき人を判断しないと善き行いすら躊躇してしまう世の中になると、映画は問う。
少し愚直なまでの愛国心と正義心を持ち、劣等感の裏返しに権力側の職業につきたいリチャードのような人間は扱いづらく厄介な部分もあるけれど、あらためて「推定無罪」の重要性を感じた。
最後、結局44歳の若さで早世してしまったリチャードの母ボビが、弁護を引き受けたワトソンの子どものベビーシッターをしていたというエピソードに泣けた。
余談だがサム・ロックウェルとキャシー・ベイツのインタビュー映像を見たが、二人とも醸し出すオーラが凄い。特にサムはロックスターかよという凄み。劇中のオーラ消しの術が凄い。

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Us―アス [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★66点

アス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

アス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: Blu-ray
■格差社会を風刺している

アメリカの陰謀論に地下は付き物。
宇宙人の秘密基地がある、ホワイトハウスにつながっている、金持ちたちが子供を拉致してペドファイルにいそしんでる、などなどの都市伝説には枚挙に暇がない。しかし、アメリカならなんでもありえそうだ…と思わせる、この廃棄された地下坑道に着目したのはなかなか説得力ありだと思う。
ハンズ・アクロス・アメリカという善意活動の下で、えげつない人体実験が行われていた。
「私たちはアメリカ人」と答えるアデレードの台詞には露骨とも言える格差社会への風刺が見て取れるけど、古典的SF「タイムマシン」の地上人エロイと地下人モーロックも想起させる。

テザードと呼ばれるクローンに魂をつなぐ技術はいったいどうやって行おうとしたのか?
クローンはどのタイミングで作ったのか?
産後すぐなら病院の産科と結託して作ったのか?という細かな突っ込みは控えたい。
結局、権力者は上の人間を操るつもりがテザードがオリジナルに操られてしまったが故に失敗したということなのだろう。
その誕生理由から上流社会のテザードはおらず、途中放棄のため全国民分のテザードはいないのだろうから、彼らが手をつなぎ蜂起したとはいえいずれ軍などに粛清されていくと思われる。
そこまで考えたとき、もしこれが何度でも権力に立ち向かえというメッセージまで含まれてると考えるとしたら、ちょっと監督は欲張りすぎだな。

入れ替わりが起きていたことで、テザードの中でアデレードだけがなぜ話すことができたのか、レッドがなぜ失踪後言葉を失っていたのか(言葉を学んでおらず話せなかったから)、息子ジェイソンはなぜプルートを操れることができたのか、などなどの伏線は回収される。

<オリジナル> →<テザード>
アデレード → レッド
ゲイブ → アブラハム
ゾーラ → アンブラ
ジェイソン → プルート

また、序盤から登場する謎の男が持っていた看板や、時計の表示「11:11」など度々現れるエレミヤ書第11節第1章。 これは聖書の引用で、 「それゆえ主はこう言われる、わたしは災を彼らの上にくだす。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない」という意味。
まさにテザードたちがオリジナルに対して報復を行うことを示唆している。

父親ゲイブがどこかとぼけた味を醸し出していて、恐怖を和らげてくれた。アデレードもプルートも、隣人の双子も怖すぎますって。
昔狼に育てられた少女の実話があったが、人間を無教育に放置するとああも野蛮になってしまうのだろうか。
まさにテザードは教育を受けられない人たちの象徴でもあるのだろう。
一方通行のエスカレーターをアデレードが上がってきたのなら、テザードたちだっていつでも逃げていけたのに、それさえも思いつくことができなかった。それは貧乏人がいつまでも搾取され、日の当たる場所に出ていけない世の中を示しているようだ。

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ザ・クリーナー消された殺人 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★55点


ザ・クリーナー 消された殺人 [Blu-ray]

ザ・クリーナー 消された殺人 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • 発売日: 2009/07/03
  • メディア: Blu-ray


■ハードボイルドな雰囲気づくりはかう
サミュエル・L・ジャクソンで、ファンキーな音楽。
冒頭、パルプ・フィクションの前日譚じゃないよね?とか思いつつ…。

役作り?少しお顔の輪郭の違うサミュエルに戸惑いも。
警察対個人の図式になるかと思いきや、とっても内輪の話だった。真犯人はエド・ハリスかエヴァ・メンデスか警察しかないのだから、おのずと絞られてきてしまうわけで。
犯人の動機が思い込み激しいというか、こじづけ&こじらせすぎる気もして少し肩透かし。
掃除のテクニックと几帳面さの描写がやけにスタイリッシュ。レニー・ハーリン監督お手の物。
母親を目の前で殺され、名付け親まで手にかけた娘の心理状態が心配だったが、最後に「相棒はお前じゃない、この私」と言わんばかりのナレーションまでついてきて安心。きっとこの家業を継ぐに違いない…。
ラスト、掃除作業に抵抗感を示していた従業員がボスの部屋を片付ける描写が好き。


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DAU・ナターシャ [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★65点

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■果たしてこれがソ連らしさなのか

http://www.transformer.co.jp/m/dau/
面白いかというと面白くはない。しかしつまらないかと問われれば、つまらなくはない。
ダウ プロジェクト」とは、一つの町と研究施設を作り上げ、そこで旧ソ連時代の全体主義を再現するという大がかりのもの。
映像作品は今後14作品創作される予定(既に1作は作成済み)、このナターシャはそのうちの一部でしかないとのこと。
なので、この一作で判断しかねるものがある。
それにしてももう少しソ連らしさや、その大がかりなプロジェクトの一端が垣間見られるのかと思ったらスケール感は小さい。あくまでナターシャという女性の個人的な視点を没入感たっぷりに演出する。シナリオはあるがセリフは即興だったという。そのためか背景の説明があまりなく、前衛的な即興劇のような感覚もうける。冒頭はいきなり愛についての禅問答が始まるし、キャットファイトは長い。

若いウェイトレスの同僚オーリャとの供依存のような愛憎関係、淡々と同じ事を繰り返す日々に不意に訪れる悲しみ、一夜を共にした外国人科学者に期待した恋愛関係の拒絶、人間または女性としての矜持を試されるKGBの拷問。
これが旧ソ連の女性のステレオタイプなのかもわからないが、少なくともナターシャが幸せではないことは伝わる。
その振る舞い方一つで優位性や関係性が変化する密室劇のようでもあった。

オーリャの家になぜ科学者たちが寝泊まりしているのかなど不明瞭の点も多々あったが、15作すべてを俯瞰すると線でつながるのだろうか。そして日本ですべて公開されるとも限らないが、今後に期待。

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ウルフ・オブ・ウォールストリート [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★80点

ウルフ・オブ・ウォールストリート [Blu-ray]

ウルフ・オブ・ウォールストリート [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: パラマウント
  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: Blu-ray
■金儲けというドラッグ

ジョーダン・ベルフォートは最初に入社したL.F.ロスチャイルドで、ぶっとんだ上司から痛烈な洗礼を受ける。 「存在しないただの数字を右から左に動かす」
そこにあたかも付加価値があるかのように思わせ、顧客が得た金は現金化する前に投資させる。
右から左へ動かす金もない小市民にとっては、ロスチャイルドだろうがベルフォートだろうが同じようなペテン師に思える

しかし彼らを軽蔑しつつ、どこかでべルフォートの圧倒的なパワーとモチベーションに惹かれるのも事実。
稼いだ金は女とドラッグとパーティーにつぎ込むという、やってることは学生のソレなのだが、こんなパワフルなトップが率いる会社にいたら、さぞ楽しいだろうなとさえ思えてしまう。
彼の操縦する船に乗り、どこまで行くかを見てみたい。
それが泡沫の夢でも、人生一度はこんな経験してみたい。
延々と見せられる饗宴には、そんな魔力が秘められている。
179分は長いが、この長さがないと、彼らと同じような陶酔感を疑似体験することは得られなかったのかもしれない。圧倒的なテンションで突き進むジョナ・ヒルらの演技は、悪ノリと狂気のはざまにある。その閾値はなんだろう。

巧みな話術で人をその気にさせ、金を転がしていく行為は麻薬に似ている。
一度その快感にはまったら抜け出せない。
ラスト、講演会に現れた無数の子羊たち。ベルフォートの前に並べられた生贄のようだった。

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アフターライフ(※ネタバレあり) [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★45点

アフターライフ [DVD]

アフターライフ [DVD]

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2011/01/28
  • メディア: DVD

■生きたいのか死にたいのか、もどかしい


リーアム・ニーソンが説教臭い死に神かと思ったら、ただの屁理屈サイコパスでした。

自分勝手な判断で、生きる気力のない者と断じた人々を殺していく。
ただすぐに殺すわけではなく、葬儀屋の立場を利用して、本人の葬儀準備期間中は生かしておく。その間、生殺与奪の権利が自分にあるかのごとく彼らと対話し、彼らに人生に対峙する勇気があるのかをテストする。これは死者の世界だと嘘をつき、心理的に追いつめて楽しんでいるのだ。

夥しい犠牲者の写真から推測するに、そのテストに合格した人はいないのだろう。だってみすみす逃したら自分の悪事がばれるだけだから。自分の能力は特別とのたまっているぐらいだから、その辺の話術は巧み。


よくわからなかったのは、リーアムはただの葬儀屋であって、検死医ではなかったはず。そんな彼が、どうやって病院に運ばれてきた者たちを、仮死状態にすることができたのか。あまりにも主人公の決断力の無さがもどかしすぎて、その辺をきちんと読みとれていなかっただけかもしれません。そして登場人物の誰もが、自分の直感を信じることができずにバッドエンド。主人公が心通わせたはずの少年が、サイコパスの後継者となるおまけ付き。
とにかく、主人公が助かりそうで助からない、生きたいのか死にたいのか決断力のなさが際だつ、後味の悪い映画でした。

予断ですが、クリスティーナ・リッチが後半ほぼ裸です。
大人になっても小悪魔的な薄幸さをかもし出しているので、この映画にはぴったりでした。



アダムス・ファミリー2 [Blu-ray]

アダムス・ファミリー2 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: パラマウント
  • 発売日: 2019/12/25
  • メディア: Blu-ray





アダムス・ファミリー [DVD]

アダムス・ファミリー [DVD]

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2013/08/07
  • メディア: DVD



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ブレグジット EU離脱 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★80点

ブレグジット EU離脱 [DVD]

ブレグジット EU離脱 [DVD]

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
  • 発売日: 2019/12/04
  • メディア: DVD


■政治のダークサイドを描く

「イギリスを、国民の手に取り戻そう!」とボリス・ジョンソン氏は有権者に呼びかけた。
結果は、僅差ではあったものの、離脱派が勝利。この有名なキャッチコピーを生み出したのが、主役のドミニク・カミングスという男。
映画はこのカミングスを、ボリスを裏で導いたブレーンとして描く。
いわゆる陰謀論というのは誇大妄想のフェイクとレッテルを貼られ無視されがちだが、言葉通り「隠された謀(はかりごと)」なので、嘘でも何でもない。私たちは予め計画された出来事を知らされていないだけなのだ。色もファッションも本も映画も、業界が流行らせる方向性を決めており、その通りに商品を流通させる。政治もしかりで、自ずとプランがある。

ボリス陣営はキャンペーン時に「イギリスはEUに毎週3億5000万ポンド(約470億円)を支払っている」と主張し、離脱派のキャンペーンバスの車体にもこの金額を掲げた。しかしこれは誇張された金額だった。
また、SNSなどのデータを使って、投票しない層の表を取り込むため、高度なアルゴリズムを使い、個人に向けて効果的な別々の宣伝をうつ。怖いのはこのシステムを持ちかけたのはアメリカの若い起業家であり、さらにその裏にはあの巨大財閥資本が絡んでたということだ。

しれっと最後にテロップで流れていたが、その一行で、それまでの全てが茶番に思えた瞬間だった。ドミニクは知ってか知らずなのか。いや、全ては仕組まれていたと言えことなのだろう。
この一文を人に見せるためだけに、本編は費やされたと言っていいと思う。

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デトロイト [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★75点


デトロイト (通常版) [Blu-ray]

デトロイト (通常版) [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2018/07/04
  • メディア: Blu-ray
デトロイト [DVD]

デトロイト [DVD]

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2018/07/04
  • メディア: DVD


■終わり無き差別との闘い

アメリカの経済史において、デトロイトは重要な場所。フォードが世界に先駆け工場をオートメーション化し、乗用車を一般人でも買える価格に押し下げた。そして新しい仕事を求めて南部から黒人の大移動が起きた歴史の説明から、この映画は始まる。

中心となる警官はステレオタイプの人種差別主義者で(ITやメイズランナーでいじめっ子が板に付いたウィル・ポールターが適役)、発砲の証拠探や、 ホテル客の身分証明書を確認するという当たり前の初動捜査をせず、はなから「黒人は敵」と決めつける。

ジョン・ボイエガが演じるディスミュークスは日々を安穏とすごすための戦術として、軍人や警察と良好な関係にあろうとするが、 ホテルでの惨状よりも裁判での権力の構造に絶望したように思える。 このような歴史が色濃く残っている限り、銃社会というアメリカの構造は変わることはないのだろう。権力を持つ人間の暴走を止めるために、誰しもが銃を持つ自由な権利があると言われれば、そこに属していない人間としては何も言うことができない。

今コビット19で新たな人種差別が起きようとしている。終息してからも、いや、もしかしたら感染が終息してから、 一部欧米人たちが日本人と中国人もいっしょくたに、アジア人差別を繰り広げるかもしれない。 コビット19では政府の自粛要請に従わなかった飲食店や興行は「ずるい」と批判される。デトロイトでも、同胞の黒人の店だろうと構わずに破壊行動は行われた。怒りのはけ口に任せて行動すると、結局、仲間同士の足の引っ張り合いになる。

しかし暴走した権力に対抗するにはどうしたら? 一時的な暴動なら、鎮圧されて終わりだ。それ相応の武力をもって暴力に訴えたとしたら、長い内乱になるかもしれない。自分たちが勝利者になったとしても、 次は立場が反転した相手から、反乱が起きるかもしれない。いわゆる泥沼だ。 結局、私たち観客がこの映画を目にしたように、勇気を持っていつか誰かの心に届くまで、起きたことを世に訴え続けなければならないのだろう。

またはディスミュークスのように権力側とうまくつきあい、権力構造の中に自分たちが入り込んでいくしかないのかもしれない。 しかしそれには長い時間がかかるし、屈辱に耐え続けなければいけない。権力に取り込まれたと、同胞から非難を浴びるかもしれない。 自分の世代では成し得ないかもしれない。未来ではその努力がおじゃんになるかもしれない。でもそれを信じて進まないと変化は訪れない。

「デトロイト」で起きたことは持つもの、持たざる者の闘争という人類史の縮図といえる。

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存在のない子供たち [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★90点

■無責任に子供を産む罪を問う
ゼインは「誰も知らない」の柳楽優弥に似ている。しっかり者で面倒見が良くて、兄弟を愛している。
でもそれはゼインが両親から与えられるべきもの。それを渇望している暇も無く、かいがいしく妹らの面倒をみる彼の姿に胸が締め付けられた。

家にいたら罵られ、休む暇も無く働かされる。しかしいざ両親の元を逃げ出し、行きずりで知り合った心優しき移民の女性ラヒルの元に身を寄せたところで、無為の時間が彼を襲う。
知的好奇心を満たすものも無く、外界からの刺激を遮断され、ひたすらラヒルの赤ん坊のヨナスをあやす時間。
人はどうしたって何かを考えてしまう動物だから、何もできない時間というのはそれだけで辛い。本来なら好奇心いっぱいに目にする物すべてを吸収したい年頃のゼインにとっては、特に残酷だ。
そんなゼインが帰ってこれなくなったラヒルの代わりに、必死にヨナスを養おうとする姿は涙なくして見られない。

しかしこの映画は、ゼインの悲しみに寄り添うものではなく、子供を労働力としかみなさず宗教上などの問題で避妊せず、愛しもしないのに子供を産む大人たちを糾弾するものだ。
お金や扶養の問題ではない。愛されたい、ただそれだけが得られない子供のなんて多いことか。
本来なら、多くの人が「生まれてこなければよかった」から「生まれてきてよかった」と言える社会にしなけれはいけないのに。

出生届を出されていないため法的に存在しないゼイン。不法移民ゆえに法的に存在しないラヒル。違法だからといって、彼らは悪人だろうか。法律至上主義の人たちにとっては、法を守れない彼らはいなくてもいい(死んでもいい)存在なのだろうか。
法律が弱者を守れないのであれば、それを変えていくのも今を生きる者達の責任なのではないかと強く思う。

ゼインは本物の難民。彼が幼いながらも「酷い国」「亡命したい」などと口にする場面には重みがあった。彼の目に希望や笑顔が宿る日を、願わずにいられない。


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パラサイト~半地下の家族 [サイコスリラー・クライム・サスペンス・社会派]

満足度★85点


●横たわる格差という溝


ある金持ち家族に身元を偽って雇用された一家族が、四苦八苦しながら取り繕うさまを滑稽に描く序盤。貧乏家族が金持ちを騙し留飲を下げるドラマかと思いきや、さにあらず。


格差社会や学歴社会、生まれた環境による越えられない壁など、非常に風刺のきいた社会の闇を描きつつ、次第にサスペンスやホラーの様相を帯び、どこに連れていかれるのかわからない怒涛の展開。最後は、痛さだけが残った。 


テーブルの下で聞かされる金持ちの愛撫。「くさい」というNGワードで、元スポーツマンの矜持がガラガラと崩れていく中年の負け組の痛々しさを、父親役のソン・ガンホが好演。地頭はいいのに金がなく進学できない兄妹。口は悪いが、決して悪人ではない肝の座った妻。


決して根っからの悪人ではない彼らをパラサイトと呼ぶ比喩は、世界中の大多数の層を指す言葉でもあって、ひどく攻撃的な響き。


だが、社会が資本主義だろうが共産主義だろうが、大多数の人間は富が集中した場所に群がらざるを得ない。一つのパイをみんなでカツカツと切り分けて生きている。環境が違えば、私たちだって違ったはず。妻のセリフに、誰もがそう思う。


人間の矜持は一体どこに持てばいいのだろう。どれだけ貧乏でも、人から情けない人間だと思われない生き方とは一体なんだろう。「足るを知る」という言葉で自分を慰めても、富む側の存在そのものが傷つける。時代劇に登場するような「清貧」という言葉が似合う、求道者のような生活をすればいいのだろうか。しかし、その生活ができるほど、現代は自由でもなければ自給自足もすることもままならない。


完全な平等社会に近づくには、生まれた時に衣食住の完璧に揃った同じ施設で育てられ、教育の機会を等しく受けるか、成人後に必ず受け取れる保証金制度を設けるなど、「機会の平等」を享受できる構造にしなければならないだろう。


しかし、そんな社会はSFのなかでしか存在しない、夢物語。だから、キムの「成功して家を買い、父親を地下から解放する」という独白は非常に残酷なラストだ。人を騙したり欺くより「まとも」だけど、その未来はほぼ来ないだろうと思ってしまうから。


彼の前に横たわる越えられない格差は、私の前にも横たわっている。あの地下室の闇がこちらを見ているようで、怖い。


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