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それでも夜は明ける [ヒューマンドラマ]

満足度★85点

それでも夜は明ける [Blu-ray]

それでも夜は明ける [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2016/02/02
  • メディア: Blu-ray

■目を覆いたくなる暴力と、奴隷が暴力に慣れてしまっている光景に衝撃

アメリカ史における黒人差別の凄惨さはうんと知ってきたつもりだが、自由黒人を誘拐して南部に売りさばくということが罷り通っていたことが衝撃だった。
しかし更に深く考えさせられたのは、ソロモンの死が場所も時間も死因も謎のままという、エンドロールの意味ありげな一文。
観客は目を覆いたくなる暴力の洪水に耐えきった後、映画が終わったとたん胸をなでおろし、災難は去ったと思ってしまう。しかしソロモンの戦いは生涯ずっと続いていて、彼の人生がやはり暴力的に終わらされてしまった可能性を示唆する一文で、自分の認識がいかに甘かったかを思い知るのだ。

描かれた差別的な白人たちは、ステレオタイプの者ばかりではない。農場主エップスは愛のない生活のうっ憤を奴隷女のパッツィーで晴らしている。彼女に執着しながらも蔑むという相反する複雑さを併せ持ち、そこには奴隷であるパッツィーを好む自分の心を許せないという葛藤も垣間見える。
奴隷たちは摘んだ綿の量が少なければ鞭うたれ、農場主の気まぐれな享楽的な夜のダンスに付き合わされ、肉体も精神も刷り減らす。パッツィーは更に夜の相手もしなければならず、肉体も魂も牢獄につながれている状態で、想像するだけで絶望しかない。


しかしその黒人たちも、その暴力に慣れてしまっている。私たちは虐げられた者たちは必ず一致団結して助け合っているという思い込みがある。しかし自分以外の奴隷がひどく扱われようと、仲間を助けたら自分が制裁を受ける恐怖から見て見ぬふりをしてしまう。
ソロモンが首を吊られている横で遊ぶ子供たち。
文化人の自負があり、他の黒人たちをどこか客観的にとらえていたソロモン。

白人たちは敬虔なクリスチャンを装いながら選民主義を標榜し、「黒人は人間ではないから神の教えに適わない」とのたまう。黒人は差別を受け続けて、差別されていることに倦んで麻痺し、未来も希望も見いだせない。そして、その奴隷たちの間にも格差がある。ブラッド・ピット演じるカナダ人の、「この国は病んでいる」という台詞がぴったりだと思った。
アメリカは、まだこの病気が癒えていないように見える。

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ハクソー・リッジ [戦争ドラマ・戦争アクション]

★満足度75点

「ハクソー・リッジ」スタンダードエディション [Blu-ray]

「ハクソー・リッジ」スタンダードエディション [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2017/11/03
  • メディア: Blu-ray
■信仰が狂気に勝った瞬間

1945年3月26日から始まった沖縄戦は6月23日に終結。浦添城跡は戦争中、日本軍からは「前田高地」、米軍からは「ハクソーリッジ」と呼ばれた。
ドスが銃を持たない理由は信仰心よりも、父を苦しめた戦争の象徴そのものであることと、そんな父を更に打ちのめした自分の行為を畏れ、また、恥じたからでもあるのだろうと思う。
心を守るために信仰するのか・信仰が心を守るのか、どちらが先かはわからないけれど、それが戦場において彼がパニックにならず、やるべきことが明確になった大きな要因なのだろう。

自分だけ安全圏にいて戦場にいかないことは国民として公平ではない、しかし銃を持って人を殺すより、傷を負った者を助けたい。彼の中では矛盾せず愛国心と博愛心が同居している。
それは他人にはなかなか理解しがたく、敵を殺めることのできない臆病者だと勘違いされるが、そもそも銃も持たずに戦場にいること自体がとても勇気の要ることなのでは?と思う。

実際、戦場においては人を殺すより、人を助ける方がずっと難しいのではないだろうか。
ドスの祈りが皆に与えたものは、束の間の心の平穏。
それはまさしく、信仰が狂気に勝った瞬間でもある。
きっとドスの助けた日本兵は他の米軍人には見捨てられたのだと思うけど、彼の行いは決して無駄ではない。
その行為を見て、改心した人もいるだろうから。こういう信念のある人が生き延びてくれて、本当に救われた気持ちになった。

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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 [ヒューマンドラマ]

★満足度95点

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 [Blu-ray]

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: Blu-ray
■“国家の危機”は思想弾圧のいい口実

「国家の危機」は、思想の強要、言論弾圧にもってこいの理由付けであり、容易に新たな独裁国家になりうる。 共産主義を誹謗しながら、その実米国自信も共産主義と何ら変わらない。
「ハリウッド・テン」と赤狩りは有名な話だが、この映画でトランポをとりまく状況は、私が想像していたのを通り越しもっと酷かった。いわば思想弾圧と集団リンチに近い。
トランポたちの活動にはあまり触れられていないが、彼らは一体なにをしたのだろうか。幕末の倒幕派と佐幕派との違いのように、よりよい国のあり方へのプロセスが違うだけでは。
スノーデンのように軍事機密にアクセスできる者が情報漏洩したのとは訳が違う。
例えば国が恐れたシナリオのようにトランポが脚本に共産主義を練り込んだとして、それに観客が感化されようとしまいと、それ自体ははっきりいって個人の自由である。
国が不安の種を植え付ければ、集団ヒステリーは容易に起こりえる。
アジアンヘイト、ノーマスク狩り、ワクチンパスによる実質的な人種差別、今回のコロナ騒ぎにも状況が重なる。 ―誰が感染し、誰がウイルスを持ち込み、誰がマスクをつけていなかった、などなど―

本来はマスクをつけようとつけなかろうと発症しなければ健康体とみなされるであろうはずなのに、誰もが無症状感染者とされ、疑心暗鬼になり「何も解決せず、互いを傷つけただけ」だった。
思想とウイルスは違うと人は言うかもしれない。
でも、思想がウイルスのように浸食するという考えのもとに、国民の自由を侵害できる法律を制定しようとした部分では同じことだと思う。
ハリウッド・テンは、政府が国民に対して恣意的に恐怖を煽り都合の良い政策を強行する、いい実例だと思った。

ジョン・ウェインは銀幕そのまま、ステレオタイプの愛国心を振りかざした赤狩り派だったが、FBIのやり方に真っ向から抗議したハンフリー・ボガートの男っぷりに痺れた。このとき俳優組合のリーダーだったロナルド・レーガンは、この時赤狩りを先導したことが大統領への足掛かりになったのだろうか。
そしてこの映画は名台詞の宝庫。名脚本家トランボの映画に値する脚本だった。

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