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ようこそ映画音響の世界へ [ドキュメンタリー]

満足度★80点

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■情熱という「波」が心揺さぶる

いやまさか、こんなに胸熱になるとは。

CG全盛期、映像の変遷を辿るドキュメンタリーはあまたあれど、音に絞った作品は貴重。無声映画からトーキーへ、という教科書的な時系列を守りつつも、まったく飽きさせない。ヒッチコック、オーソン・ウェルズなど先人たちの実験的な試み、「スター誕生」の製作総指揮も務めたバーブラ・ストライサンドが、一時は自腹を切ってこだわったおかげで「ステレオ」環境が映画館で当たり前になったこと、ビートルズなどのロック・ムーブメントがルーカス、コッポラ、スピルバーグなど新進気鋭の映画監督達にもたらした影響、そして名だたる監督たちが新しい音楽と映像の融合世界を牽引していく様子と、それを支える仕事人たちとの出会い。

原題の「making waves」というように、一つの波がさざ波となって歴史を流れていく一大叙事詩を見ているよう。 驚いたのは、ハリウッドが60年代くらいまで「音」に注意を払ってこなかったこと。 スタジオごとに銃声・ひづめ・車の音など「音」のストックがあり、それを他の作品でも繰り返し使っていたという。確かに言われてみれば、昔の西部劇なんてみんな同じ音だった。近くで撃っても遠くで撃っても「ズキューン」だったし、馬はみんな「ヒヒン!」と同じいななきだった。

ちょっと目を離しても何が起きたのかが音でわかった。テーマ曲以外は没個性だったのも頷ける。今よりマイクの性能などもよくなかったから、生音を録音する手間を考えると至極もっとも。また、なぜ効果音をフォーリーと呼ぶのかも知れた。先駆者の名前だったのね。


SWファンなら既知のことだが、そのあまりの作風の違いからか、若かりしコッポラとルーカスが共同で制作会社を立ち上げたことを知る人は存外知られていない(私の周りでは)。現代映画への転換期としてこの二人と、一緒に会社を立ち上げたメンバーであるウォルター・マーチの物語に中盤は時間を割いている。特にウォルターはその後、「音響デザイナー」という職の礎を作った人物。音の重要性を理解しない上層部にへこたれなかった彼らの不屈の情熱があったからこそ、今傑作と言われる作品の世界へ没入できることに、一ファンとして幸せを感じる。 次々に名だたる監督が登場し、音響スタッフへの謝意と映画へのこだわりを語っていく。

現在の映画製作では18トラック使うのが当たり前だそう。多様化し分業化された「音」のプロたちの仕事が織り合わさり、タペストリーのように構築されていく様子に舌を巻く。

スター・ウォーズ好きとしてもたまらない。チューバッカの声は動物園の「プー」という熊の鳴き声だったことや、ルーカスから音の収集を撮影と同時進行で頼まれた音響スタッフのベン・バートたちのエピソードなど。彼らはその名の通り「ロードマップ」を作り、一年かけてあらゆる音の収録をして大陸を回ったと言う。それまでSF映画の宇宙船はシンセサイザーでチープな音を出していたのを、実生活で聞くことのあるリアルな迫力のある音にこだわったルーカス。上層部が「売れないだろう」と評したスター・ウォーズは、音からもSFを変える。

そして音により輝きを増した数々の名作のラッシュに続き、締めくくりは飛び立つミレニアム・ファルコン。 胸が熱くならずになんとしよう。

説明される様々な音響の違いを耳で感じるためには、映画館で見るべき映画だと思った。


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サードマン [■BOOK・COMIC]

サードマン: 奇跡の生還へ導く人 (新潮文庫)

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  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2014/03/28
  • メディア: 文庫

■読めば読むほど、脳の不思議さは増す


サードマンの出現。世界的アルピニスト ラインホルト・メスナー、山野井泰史、自分の腕を切断して生き延びたアーロン・ラルストン、あまたの宇宙飛行士、南極大陸の基地職員、様々な局地探検家などなど体験談に枚挙に暇がない。これほどの数の人間が体験していたことに一種の感動を覚えた。

そもそもこの現象が一般的に有名になったのは、アーネスト・シャクルトンとう方の壮絶な漂流記をもとに、アメリカの詩人T・S・エリオットが「荒野」で詩にしたからだという。

本当はシャクルトンが見たのは「4人目」であったというが、3人目の方がきりがいいし、キリスト教の三位一体や「第三者の目」という慣用的な言い回しにもぴったりと合致したもののように思う。

局地探検家や被災者など、生命を脅かされた誰しもがサードマンを体験したわけではない。本書はその原因を推理していくのだが、私も著者と同じように、極限にいながらもどこか自分が生存できることを信じている者に現れやいのでは、と思った。本当の意味で死んでもいいとは絶対に思っておらず、意志ではいかんともしがたい致命傷を負っていないこと、精神力がもともと安定している人たちに起こりやすいと思われる。

本書は最終的には脳神経に原因を求めているが、ロマンを否定するものではなく、人間が窮地に陥ったときに精神を安定させ、正しい知識を良い起こす能力として自在に操れたら・・・という未来の夢の技術の到来に思いを馳せている。 サードマンは「インターステラー」などSF映画でよく抽象化される「テレパシーまたは次元を超えた存在」で、「キャストアウェイ」で主人公画ボールに名前を付けて擬人化して心のより所にした人間の能力、と受け取れる。サードマンと定義されなくても、人間は昔からそういう能力を擁して生きてきたのだと思う。


インターステラー [Blu-ray]

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キャスト・アウェイ [Blu-ray]

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